お国が変われば

 バレンタインの日、職場でちょっと面白いことがあった。パートの女性たちが同じフロアで働いている男性にチョコレートをプレゼントするため用意した。それをどうやって渡そうかと考え、男性の名前を書いたくじを作り、それによって渡す相手を決めることにした。

 僕が働いているフロアの男性は4人、女性は7人である。チョコレートを購入に行ったふたりは役割を済ましたということで、くじから除外されて残った5人でくじを引いた。そして、誰が誰に渡すかということが決まっていき、最後に中国人の陳さんと日系ペルー人のJさんが残った2枚のくじを引くことになった。残ったくじに書かれていた名前は僕とフロアのリーダーのBさんだった。Jさんは陳さんに「引いて」といい、陳さんはあまり状況がわからないまま残った2枚のうちの1枚を取った。そして、そこにはBさんの名前があった。

 「陳さん、Bさんにチョコ渡して。今日はバレンタインデーだから」とJさんが言うと
「ナニ!ワカラナイヨ、ナニ?」と陳さんは言い「ナンデ、Bサンニ、チョコアゲナイトイケナイ?ワタシ、スキジャナイヨ」と怒りだしてしまったそうだ。そして、誰がこういうやり方を決めたのかと、パートの人たちや社員のNさんにも訊き、その人物に抗議をしようとしたらしい。

 たぶん、この方法を考えたのは日系ペルー人のJさんだと思うけど、曖昧になったままで済み、結局チョコレートはリーダーのBさんに一括して渡され、Bさんがそれぞれに配るといった、あまりにも有り難くない形になってしまった。しかし、もし陳さんが一番信頼していて仲もいい社員のNさんを引き当てたとしても、怒りはしないだろうが恥かしがってしまい、結果は同じだったかもしれない。

 暮れの忘年会の写真ができてきたとき、不参加であった陳さんも面白そうにそれを見ていた。しかし、何枚か見ていくうちに、だんだんと陳さんの顔が険しくなっていった。そして、そのうちの2枚を抜き出して「コレ、ダメヨ、ダメ」と言い出した。その2枚とは妻帯者の社員Nさんがパートの女性と腕を組んで2ショットで映っている写真だった。

 「コレ、オクサンニミセル?オクサン、オコラナイ?」と陳さんは本気で心配し、Nさんに何回も確認していた。恐らく中国では結婚した人間が他の異性と腕を組んだりすることは許されないことなのだろう。それは日本でも場合によっては許されないことであるが、会社の忘年会での出来事なら問題になることはないと思う。しかし、中国ではどういう事情があってもダメなことのようだ。

 また、短期のパートさんが辞めるとき、ひとりひとりにお辞儀をしてみんなに挨拶をしていった。当然、陳さんにも挨拶をしていったわけだけど、「ニホンジンハオカシイ、オジギスルヨ」とJさんに言ったそうだ。Jさんが「ペルーでの挨拶は頬にキスするよ」というと「ソレ、モットオカシイネ」と陳さんは信じられないという顔をしたという。陳さんの話しだと、中国では朝、職場にいっても「おはよう」とかの挨拶はしないそうだ。

 育った場所、住んでいる場所が変われば常識も変わる。常識なんて所詮そんなものだ。バレンタインのチョコは残念なことになってしまったが、面白い日だった。(2006.2.19)




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