クリスマスの日

 治ったと思っていた風邪がすこしぶり返したらしい。22日の忘年会の翌日あたりから、頻繁に咳が出る。23、24日と部屋でのんびり過ごし、24日の夕方に買って来た競馬新聞で深夜まで有馬記念の予想をした。

 しかし、なかなか結論は出ない。タップダンスシチーは明らかに年齢的な衰えが見られるし、ゼンノロブロイはテイエムオペラオーの最後の姿にだぶって見える。ハーツクライやリンカーンはいまひとつだし、デルタブルースだってやっと間に合ったという感じだ。

 こういう時は格下でも最近調子のいい馬が来る場合が多いと思い、グラスボンバーに目がいった。しかし…とまた考え込んでしまう。結局深夜2時くらいまで、考えたが結論は出ず、寝ることにした。

 25日、朝8時少し前に目が覚めた。寒い、それに体がやけにだるい。やはり、風邪の影響があるらしい。カーテンの隙間から差し込む弱々しい冬の低い陽が、さらに部屋を寒々とした雰囲気にしていた。僕は、ふとんを被り温かく静かな世界に落ちて行く。

 再び目が覚めたのは10時を少し回った頃だった。トーストを焼き、コーヒーを飲みながら昨日の続きをする。ハーツクライがゼンノロブロイに今年になってから2回先着していることに今更ながら気づき、これにデルタブルースと昨日決めておいたグラスボンバーを加え、ディープインパクトから馬連で流すことにする。

 12時少し前、家を出て後楽園に向った。いつもは家から一番近い渋谷の場外に行くのだけど、混雑を予想して売場の広い後楽園のWINSまで行くことにしたのだ。それにしても体がだるい。競馬はなければ1日ふとんの中で過ごしたいくらいだ。

 地下鉄南北線の後楽園駅を下りると、人の波だった。長いエスカレータも上から人が連なって動いている。切符売場は何処も長い列ができていて、「混雑が予想されますので、帰りの切符はお早めに」とアナウンスが流れている。

 駅から繋がる歩道橋も人で溢れていて、あちこちからたばこの紫煙が空に拡散している。冬の弱い陽だけど、風がなくて、陽だまりに入るとぽかぽかしてくる。くすんだ色の人の川が東京ドームに沿って流れていく。僕のその中の一滴となる。前を歩いているふたり連れの男性のうち、黒いダウンコートを着た若い方がしきりにタバコを蒸かし、それは僕の方に流れてきて煙くて仕方ない。

 彼らを追い超し、先を急ぐ。WINSの入口では女性の職員が赤いサンタクロースの格好をして、案内をしている。5Fまで直通のエスカレータに乗って、家で記入したマークシートを取りだし、馬券を買った。

 帰りは後楽園駅の混雑を嫌い、地下鉄の飯田橋駅まで歩いた。首都高5号線の下を流れる神田川に沿っていくつものダンボールで作られた‘家’が並んでいる。その前には台車やビニール傘が置かれていたりして、生活の息遣いが聞えてくるような気がした。


 有馬記念が終わった。馬券はとったが、あまりうれしくはなかった。ディープインパクトが負けたからだ。馬体重がデビュー以来最低だったように、馬の体調が良くなかったことは確かだと思う。だけど、武騎手に過信があったように感じた。「どんな競馬をしても勝てる」といった過信が…。

 ルメール騎手は天皇賞、ジャパンCとハーツクライに乗り、この馬の長所も短所も掴んでいたに違いない。中山の2500mという舞台とハーツクライの脚質を考え、最後方からの追い込み一手だった戦法を棄て、果敢に先行策に出て見事に成功した。バックストレートに3番手で折り合うハーツクライを見たとき、間違いなく連帯する1頭はこの馬になると確信した。

 ディープインパクトは最後、よく距離を詰めてきたと思う。ちょっと強いくらいの馬なら後方尽くといった感じになったかもしれない。ただ、位置どりが悪すぎた。ペースが途中から落ち着いてしまったのも誤算だったかもしれない。

うれしいような寂しいようなクリスマスの日だった。(2005.12.28)




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