新しい人

 これから年末にかけての繁忙期のため、現在新しい人が入って来ている。僕が働いているフロアーでも月曜日にひとり入った。

 Tさんという46歳の男性の人で、前は工場で働いていたそうだが、そこでは重いものを持つ作業があり、そのため手が腱鞘炎になってしまい、勤務できなくなってしまったらしい。今の仕事は重いものを持ち上げることは、ほとんどないのだけど、全くの未経験のため、ちょっと苦戦している。

 月曜日から土曜日までの週6日で、時間は9時〜20時までの10時間勤務ということで、かなり大変だなと思って社員に訊いたら、「稼ぎたい人だから」と言われた。ただ、僕の働いているフロアーは、夜8時まで仕事があることはほとんどないので、夜は他の部署を手伝いに行くことになるようだ。

 それにしても毎日10時間、6日で週60時間というのはすごいと思う。僕も正社員の頃は、それ以上に働いていた時期もあったけど、もうそんな生活はまっぴらだという気がする。それだけ働いたとしても、週に5万4千円にしかならないというのも哀しい。

 お金を重視する人は本来、正社員として勤めた方がはるかにいいと思うのだけど、昨今の社会的情勢は、なかなかそう簡単にいかないし、また自分のやりたいことのためバイトやパートをしている人も、時給の安さによってより多くの時間を仕事にあてなくてはいけなかったりして、やりたいことができないといった笑えないことになっていたりする。自由をある程度得るためには、低賃金でも何とか精神的余裕を持てる暮しができるような技術が必要なのかもしれない。

 金曜日の休憩時間、Tさんとたまたまいっしょになったため、いろいろと話すことができた。仕事では生真面目さが目立っていたTさんだけど、意外と気さくな人だった。何でも、週6日で毎日8時までできると言ってしまったことを後悔しているようだった。

 「土曜日って、そんなに忙しいですかね?」と訊かれたが、僕は出勤していないのでよくわからない。ただ、土曜日に出勤しているパートの人の話しだと、それほど忙しいということもないようで、Tさんにそのことを話した。
「それに毎日8時まで、やらなくてもいいんじゃないですか?そのあたりは、自分の都合で変えていってもいいと思いますよ」と言うと
「そうですよね」とほっとしたような表情になった。

 ‘稼ぎたい人’という評判ではあったが、それほどでもないようで、ただ面接の時に「できるか?」と訊かれて、「できます」と言ってしまっただけのようである。

 最近、人を大切にするということが、日本社会全体で失われつつあるように感じる。時間をかけてゆっくりと人を育てるということがなくなってきた。すぐに結果が求められたりする。そして、すぐに結論を出そうとする。

 Tさんに関しても、そんな気配が伺え、少し心配である。だけど、何とか、誤魔化し、誤魔化しでも粘ってほしい。そうすれば、いろいろな面が結論を急ぐ人たちにも見えてくるだろうから…。(2005.10.1)




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