やって来た詐欺師

 今の仕事はサービス業のため、基本的に祭日は関係ないようである。社員の中にはGW期間中も休日なしで、働いている人もいる。僕は幸いパートなので、休みたいといえば休めるのだけど、もともとGWは何処に行っても混んでいるのし、特に予定もなかったので、3、4日と2日出勤することにしていた。

 ところが、体の調子が悪く、4月27、28日と2日休んでしまい、結局プラス・マイナス・ゼロとなり、あまり意味がない結果になってしまった。正社員からパートになったとき、その給料の低さに、少なからず不安を抱いたものだった。有給休暇というものがない身分なので、1日休めばそれだけ給料が減り、不安がさらに増大し、当初、安易には休めないという気持ちが強かったが、最近はそれが薄くなった。

 人間というものはどうのような状況でも、それに慣れていってしまうものらしい。僕も、薄給に慣れてしまったらしく、なんとか日々の生活が成り立てばそれでよくなってしまったらしい。時間の自由度が高い今の立場を、有効に使おうという気持ちが強くなったようで、のほほんと日々を過ごしている。

 しかし、給料に対する不安はそれほどないのだけど、仕事に対する不満は時折強くなったりして、気持ちが掻き乱れることもある。仕事に対する不満…端的にいってしまえば、仕事がつまらないということで、自分でも割り切ろうとするのだけど、いつまで経っても余りが出る。

 4月27、28日と体調を崩して2日休んでしまったとき、このままずっと…と考えないこともなかったが、それがまだ少しでも前向きな色合いがあるのならいいかもしれないが、ただの逃避に過ぎない行動と思われ自省した。時にはただの逃避から何かが生まれることもあるだろうが、今の自分ではその可能性が低いように思われた。

 5月2日、だめな方向に流れそうな自分に鞭打ち、出勤した。いつもはつり革につかまることも容易でない電車は、がらがらでシートに座ることができた。世間的には、GWで旗日ではない今日も休んでいる人が多いのだなと改めて実感した。さらに3、4日と道路を歩いている人もいなくなり、さらに朝の電車は人が減り、都内は閑散としていた。天気がよかったこともあり、会社で仕事をしていることに実感がわかず不思議な感覚になった。仕事に行っていたため、知らなかったのだけど、僕のアパートではある事件が起きていたのだ。

 5月4日、仕事から帰ると隣の部屋の住人がやってきて、今日、詐欺師がやってきたという。部屋のチャイムが押されたので、ドア越しに用件を訊くと‘ゴミの収集日が変わりますので、そのお知らせに参りました’と言い、ドアを開けると、60代くらいの紺色の作業服を着た男性が立っていたそうである。その男性の体からは、もうかない長い期間風呂に入っていないような体臭がして、すぐにホームレスだなと直感したらしい。彼は‘町内会の者です。町会費の徴収にやってきました。350円になります’と言ったそうだ。

 しかし、どう見ても町内会の人間には見えないし、第一今住んでいるアパートでは大家さんが町会費を払ってくれているので、部屋を借りている住人のところに徴収に来るということはない。

 明らかに詐欺だとわかった隣の部屋の住人は、‘今はお金がなく、祝日だから銀行も開いていないので払えない’と断ったそうだが、350円がないなどということは常識では考えられず、相手にしてみれば自分を疑っているということがわかったのあろう、大人しく帰っていったという。その後、隣の部屋であるうちのチャイムを鳴らしていたらしいのだけど、僕は仕事に行っていて誰も部屋にいなかったため、諦めて何処かに行ったようだ。

 隣の部屋の住人はすぐに警察に連絡して、状況を伝えた。それにしても、騙し取ろうとした額はわずか350円…。どう考えても成功しない詐欺である。やってきたその人の身なりから、何ともいえない気持ちになってしまった。TVのニュースを見れば、今日あたりが帰省ラッシュで、海外からの帰国者もこの週末にかけて多くなるらしい。(2005.5.5)




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