モーターサイクル・ダイヤリーズ

 金曜日、朝起きてトーストを食べていたら、会社を休みたくなり、映画を観にでも行こうかと思い立った。そういう思いになったのには伏線がある。前日の木曜日、会社でいっしょに働いているペルー人の友人と昼食をいっしょにとった。そして、キューバ革命の指導者エルネスト・チェ・ゲバラと友人の医師アルベルト・グラナードの若き日のバイクでの南米大陸横断の旅を描いた映画「モーターサイクル・ダイヤリーズ」の話しをした。

 僕がこういう映画があると、ペルー出身の彼女に教えたのだけど、一夜たったら急に観に行きたくなってしまったのだ。いつかは観に行こうと思っていたが、いつか、いつかと思っていると結局、観ないで終わってしまうことが多く、思い立ったら吉日とばかりに、会社には「急用ができた」とまんざら嘘とはいえない理由をこじつけて休み、10時ちょっと過ぎに家を出て、恵比寿ガーデンシネマに行った。恥かしいことではあるが、恵比寿ガーデンプレイスに映画を見に行くのは初めてで、場所がいまいちよくわからず、すこし焦ったが、何とか辿り着くことができた。そして初回である11時からの上映を観てきた。

 映画館は平日にもかかわらず、ほとんど満員でやや前の方の席を何とか確保することができた。若い女性が多く、最近、静かなブームになっているチェ・ゲバラの人気を感じさせた。映画の前半は美しい南米の自然を背景にバイクで旅するロードムービーだ。ダート道の疾走や派手な横転、峠の雪道のシーンなど、バイクで旅することが好きな僕はわくわくしながらスクリーンを見入った。馬と競争して負けたり、強風でテントが飛ばされたり、バイクの修理工の妻に手を出そうとしてばれ、村の男達に追い回されたりと人間的で情けないところも丹念に描かれている。それにゲバラとアルベルトの厚みのある友情もいい。女好きで傲慢なアルベルトに、生真面目なゲバラがいつ愛想を尽かしてしまうのだろうと観ていたが、反目し合いながらもふたりの旅は続いていく。

 ペルーに入り、南米の中心、古代インカ帝国の首都であるクスコに入ったあたりからゲバラの心の変化に焦点が当り始める。スペインによって破壊されたクスコにゲバラはもしインカ文明が現在まで続いていたらとの思いを馳せ、マチュピチュの遺跡に懐かしさを感じ、厳しい人々の暮しに心を動かされていく。やがて革命の指導者となる下地ができていく姿が丹念に描かれている。ガイド役のペルーの子供がクスコの街を案内するシーンでインカ帝国時代に造られた壁はインカの壁、侵略者のスペインが造った壁はインチキの壁と言っていたのは笑えた。映画を劇場に観に行ったのは久しぶりだ。大きなスクリーン、迫力のある音響、やっぱり映画館はいい。

 映画を観終わり、恵比寿、目黒辺りをぶらぶらした。平日の散歩というもの、気分がいい。開放的な気持ちになり、周りの景色がよく見える。そして、3時くらいに部屋に戻り、昼飯がまだだったことを思い出して、カップラーメンを食べた。前回の文章の最後に「金曜日は会社に行けるのだろうか?」と書いたけど、結局また「ずる休み」をしてしまった。木曜日の夜にそんなことを書くということは、もうその時点で心の奥底では結論が出ていたのかもしれない。

こういう映画を観ると自分もバイクで放浪したくなってしまう。自由に何処までも、何処までも…。(2004.10.24)




皆さんのご意見・ご感想をお待ちしています。joshua@xvb.biglobe.ne.jp

TOP INDEX BACK NEXT