日常をちょっとだけ破壊してくれるもの

 東京では、現在、激しい雨が降っている。台風22号はまだ、南大東島の北東300Kmの海上を北北東に35Km/hで北上中だというのに、その北にある秋雨前線が刺激されてこの雨になっているようだ。そして台風は明日の午後に、日本列島の太平洋岸に上陸するらしい。今年は台風の当り年で、今まで8個も日本列島に上陸しているが、関東にはそれほど近づいてはいない。しかし、今度のは、かなり近いところを通りそうだ。

 夜中に外からの激しい雨音を聞いていると不思議と心が落ち着いてくる。今はただ激しい雨が降っているだけだけど、明日の午後…、どんな光景が見られることになるのかわくわくする。そう、僕は台風が決して嫌いじゃない。むしろ、好きなのかもしれない。

 子供のときから、そうだったように思う。小学生のとき、台風によって増水した川を見に行こうとしたことがあった。それは、川の増水が心配だったからではなく、台風によって外がどんなことになっているのか、川の水位がどこまで上がっているのか、それを見たかったからだ。結局、暴風雨の前に家を出て10mで傘が壊れ、すぐに引き帰すことになってしまったけど、楽しい気持ちだった。

 日常は、まるで揺るぎもしない。毎日、毎日同じように過ぎて行く。しかし、それを多少なりとも、壊してくれるものがある。そのひとつが台風なのだ。こんなことを書くと、台風によって日常を完全に破壊されてしまった人たちに申し訳ない気がするが、これが僕の正直な気持ちだ。東京という街は土砂崩れが起きることもなければ、鉄砲水が出ることもない。被害といっても、強風によって看板が飛ばされたり、水が出たといってもせいぜい床下浸水程度のものだろう。だから、こういった無責任なことがいえるのだと自分でも思う。

 台風が接近してくると、何故か気持ちが昂ぶってくる。TVの台風情報など、ほとんどかぶりついて見てしまう。記録的な豪雨というのを見たいし、それが強風によって建物や地面に叩きつけられるところを見たい。それらによって、電車が止まったり、学校が休みになったり、地下街に水が流れ込んで下水道のようになったり、木々が激しく揺り動かされたり、河川が増水してごうごうと流れている光景を見たい。そして、動き続ける日常が止まる姿を見てみたい。

 同じ理由で、僕は大雪も大好きなのだ。いや、むしろ雪の方がまだ平和的だし、汚い東京の街を白くすっぽりと覆い隠してくれるから、好きかもしれない。だけど、最近は地球温暖化のせいか、東京にはあまり雪が降らなくなってしまい、ますます台風に期待がかかるわけだけど、だいたいいつも中途半端で終わってしまう。

 止まりかけた日常も、台風が過ぎれば何もなかったように動き出し、僕を縛り付ける。そしてまた鬱陶しい時間が流れ続ける。結局、僕は外部の大きな力によって、開放感を味わいたいだけなのかもしれない。日常という壁に、ぽっかりと穴が空いて、そこから何処までも続くような青空が少しでも見られたらと思う。

さて、明日はいったいどうなるのだろうか。たぶん、どうにもならないだろうけど…。(2004.10.09)




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