相次ぐ退社と時給アップと噂

 先日のU君に続き、ベテランのパートSさんまでが会社を辞めてしまった。そんな徴候もなかっただけに、ちょっとショックだった。思い起こすと、夏休みに入る前、やけに丁寧に挨拶をされたので、その時にはもう決めていたのかもしれない。理由は、体の調子が悪く、仕事に耐えられないということだった。Sさんは仕事ができるのみならず、パートのリーダー的存在で、話せる人だっただけに残念だ。A君の送別会でいっしょに踊ったことが思い出された。

 それだけでなく、営業所創立当時から勤めていたNさんまで、辞めてしまった。Nさんは夏休みが明け、今週から出勤の予定だったのだけど、先週末に会社に辞意を伝える電話があったそうだ。SさんとNさんは仲が良く、恐らくどちらかが辞める決心をしたため、「それじゃー」ということになったように思うのだけど、Nさんの場合は何となく予感があった。というのも僕が夏休みに入る前々日にNさんから、
「私、介護ヘルパーの資格持っているんだけど、派遣とかで働けるところインターネットで探してくれない?」と頼まれたからだ。介護ヘルパーとは体の不自由な人が外出するさいに、いっしょに付き添い、いろいろと世話をする仕事のようだ。

 そうは頼まれたのだけど、一日ではどうしようもなく、結局見つけることができなかった。そのことを翌日、Nさんに言うと予想していたようで
「でも、このことは内緒ね」と口止めをされた。僕も北海道に行ったりとかで、そのことはSさんが辞めるまで、忘れていたのだけど、Sさん退社の話を聞いたとき、或いはNさんも…と思ったのである。ほとんど同時に、ベテランがふたりも辞めてしまったため、仕事の方が大変になりそうである。

 そんな中、部署のリーダーに話があるからと呼ばれ、行ってみると、
「もう一年経ったし、いろいろと重要な仕事をやってもらっているので、時給を来月から上げるように、本社に申請をした」ということだった。
思わず、「いくら、上がるんですか?」と訊きそうになったが、それははしたないので止め、とりあえず「ありがとうございます」と言っておいた。今の会社は何年やっても時給は上がらず、ボーナスの方で対応すると聞いていたので、ちょっと戸惑ったが、多少なりともお金が多くもらえるのはうれしいことだ。

 その日、他のフロアーで働いているバイトのA君に会ったら、
「Hさん、正社員になるんですってね」と全く身に覚えのないことを言われた。
「え!?、ならないよ。そんな話、誰が言ってるの?」と訊くと
「Bさんが言ってましたよ。それにY君も、Hさんを社員にして、バイトをひとり入れる予定だって言ってたけど…」と言った。
Bさんというのは僕とは違う部署の社員でA君の上司にあたる人で、Y君というは僕と同じ部署の一番若い社員である。それにしても、自分の全く知らないところで、そんな話がひとり歩きしているとは恐ろしい気がした。Y君はともかく、Bさんが勝手にそのようなことを言うとは思えず、或いはどこかでそんな話がでたのかもしれない。会社としては、バイトという不安定な労働力ではなく、正社員にしてがっちりと管理し、安定的な労働力にしたいのかなと思った。

 しかし、僕は自由が好きなのである。暮していけないのならともかく、何とかなるのだから正社員など窮屈な身分にはなるつもりは全くない。確かに、今でも会社に通勤して、そこから給与を貰っているのだから家畜であることには変わりない。しかし、ブロイラーの鶏のように身動きもできないケージに押し込まれたくはない。餌だけ、豊富に貰っても仕方ない気がする。庭くらいは歩き回れる程度の自由は確保しておきたいのだ。

 先のことを考えれば、確かに不安にはなる。だけど、不安にならない将来って、そんなにいいものなのだろうか?僕には不安にならない将来なんて、グロテスクで悪夢のような気がする。わからないから生きていられる、そう思うのだ。(2004.9.14)




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