朝から競馬

 5月1日、連休の最初の日、東京競馬場に行った。昨日は早く帰れると思っていたのだけど、夕方になって仕事がたて込んで来て結局8時近くまで会社にいることになってしまった。6時であがって、帰りに競馬新聞を買い、予想にたっぷりと時間をかける予定は脆くも崩れた。

 朝から競馬に行く前日はだいたい寝るのが深夜になってしまう。というのもレースの予想にかなりの時間がかかるからだ。競馬は1レースから12レースまであり、他で開催されているレースも含めるとその数はさらに増えて18レースくらいなってしまう。もちろん全レースやるわけではないが、だいたい4〜6時間かかり、深夜2時を越えてしまったりする。となるとどうしても朝寝坊してしまい1レースが始まる10時までに競馬場に行けなかったりしてしまう。しかも、今回は競馬仲間のTさんと競馬場で待ち合わせをしているのだから遅れるわけにはいかない。

 今まで僕はTさんとは何回もいっしょに競馬場に行ったが、待ち合わせの時刻に間に合ったことが1度もない。今度こそは、約束の時刻の5分前には着いていたいものだと思い、家に帰って来て夕食をとりながら競馬新聞とにらめっこをして、いつもはウダウダとなかなか進まない予想をチャッチャッと進め12時30分に終わらせることができた。

 しかし今日…、また遅刻をしてしまった。約束の時刻より15分遅れて東京競馬場の正門に着いたとき、Tさんの姿はなかった。15分くらいなら待っていてくれるTさんだけど、1レースの締切りが近いためかな?と思い、僕もとりあえず1レースの馬券を買い、また正門に戻ったけど、その姿を見つけることはできなかった。しかし、競馬場で知り合いの人に偶然合うということはよくあることだし、Tさんがいそうな場所の見当も付いているので何とかなるか?と思った。

 自信があった1レースだけど買った馬券は1着3着で、さい先の悪いスタートになってしまった。つづく2レースはかすりもしなかった。3レースからはパドックで馬を見てから決めることにした。

 パドックを周回している馬を1頭1頭丹念に見ていくと、やけによく見える馬がいた。前夜の予想では消した馬だったが、この馬が勝つような気がした。7番ユキノスマイル、父はダービー馬のタヤスツヨシ。すると僕の隣で馬を見ている2人の初老の男性が
「7番の馬良くないか?」
「単勝も13.5倍もついてるしな」
「いいよな?」
「う〜ん、面白いかもな。だけど、牝馬だからな。アテにはなんねーよ」
などと話している声が聞えた。僕と同じように7番の馬がよく見えた人がいることに、自信が確信に変わっていた。しかもその初老のふたりの男性はいかにも玄人という感じだ。僕は7から数点ながし、さらに7の単勝も勝った。わくわくしながら、レース場の最前列に陣取り、ゲートが開くのを待った。

 ダート1600mの未勝利戦が始まった。ユキノスマイルは中段やや後方に位置してレースは淡々と流れた。何かイヤな気がした。強い馬同士のレースなら後方から差すというケースはよくあるが、未勝利戦の場合、後方を走っている馬はそのまま終わってしまうことが多いのだ。そして、それは的中してしまった。ユキノスマイルは11頭立ての7着だった。一体、パドックで僕は何を見ていたのだろう…

 つづく4レースも入念にパドックで馬を見て、さらに競馬新聞のデータも加味して馬券を買うことにした。このレースは1着になる馬には自信があった。単勝で勝負をしようかと一時は思ったけど、オッズが2.7倍だ。これでは、仕方ない。この馬から3点流しにすることにした。結果は確かに予想の馬は1着に入ったけど、ヒモをはずして4連敗となった。5月の太陽と芝生を駆け抜ける風だけが、とても気持ち良かった…

 今日はどうもついていないらしい。Tさんに合えばツキが変わるかもと思い、いろいろな場所を探したが見つけることはできなかった。5レースはパスして、12時に再び正門に向かった。ひょっとしたら、Tさんが現われるかもと思ったからだ。だけど、人の波の中、見つけることはできなかった。

 僕は勝負を止めて、すっぱりと帰ることにした。こういう時は撤退するに限る。ただ、メインのダービートライアルの青葉賞だけは昨日の夜、もっとも長い時間をかけて予想したレースなので買って帰ることにした。

 午後3時40分、青葉賞がスタートした。僕はTVの前で観戦していた。本命の馬が最後直線に入り力強く伸びてきた。もうこの1着は間違いない、後は2着だ。僕が買った馬は、もう一頭と激しく競っていた。
「差せ!差せ!差せー!」とか
「オカベー!」とか
TVの前で絶叫してしまった。そして、僕の買っていた馬がゴール前、何とか競り勝った。僕はTVの前でガッツポーズをした。これで今日の負けを一気に取り戻したばかりか、明日の天皇賞の資金まで稼ぐことができたからだ。気をよくした僕はインターネットのJRAのホームページにアクセスして、買わなかった5〜10レースまでの結果を見てみた。そしたら、僕の予想は、全てはずれていた。ということはあのまま競馬場にいたら10連敗をしていたことになる。あの時、帰ろうと思った判断は正しかったのだ。だけど…、ちょっとだけ、複雑な気持ちになった。(2004.5.1)




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