小さな先生

 昔はよくPCでゲームをしましたが、最近ではほとんどといっていいほどしなくなりました。ただ、唯一の例外としてSIM CITYというゲームは楽しんでいます。SIM CITYは有名なので知っている人も多いかと思いますが、都市開発のシミュレーションゲームです。自分が市長となり、何もない土地に発電所や水道設備などのライフラインを整備し、警察・消防・学校・病院などの建物を設置し、鉄道や道路を造ったり、予算の配分、条例の制定、近隣の都市との取り引きなども行ないます。

 僕はそのゲームを楽しんでいたのですが、原子力発電所が爆発するという事故が起きてしまったのです。都市が成長すれば消費される電力量も当然増えます。したがって新しい発電所を建てないといけないのです。僕の都市もその種の警告が何回も発令されていたのですが、新しい発電所を建てる予算がなかったため、まだ大丈夫だろうと無謀な稼動を続けた結果、大惨事をまねいてしまったのです。これが石炭や石油などの発電所だったらまだ被害は軽微だったのですが、何しろ原子力です。周辺はたちまち放射能に汚染されてしまい、人っ子ひとり寄り付かない死の土地となってしまったのです。

 限られたスペースで都市を開発していくゲームで、あるエリアが全く使えなくなるというのは大きな損失で、かなりの制約を受けることになってしまいます。何とかして早急に放射能を除去しなくてはなりません。僕はマニュアルをすみからすみまで読み、放射能の除去の方法を探しました。しかし、その方法を見つけることはできませんでした。だけど、コンピュータゲームというのは、こういう場合マニュアルにも書いていない裏ワザなるものがあるものです。僕はネットでその方法探すことにしました。そうです、ネットならきっと何かわかるはずです。

 僕は早速、PCをネットに接続し(未だにダイヤルアップなもので…)、検索して、多くのSIM CITY関連のホームページを見つけることができました。そして活きようようと調べ始めたのですが、何処にもそのようなことは書かれていません。このような馬鹿げたミスをする人間はあまりいないのかな?という気持ちになりました。失望を禁じ得ませんでしたが、ホームページ上に載っていないのなら情報を募ればいいと思い、僕はある掲示板にそのことを書き、解答を待つことにしました。

 数日経って、その掲示板をのぞいてみると、僕の問いに関する解答が寄せられていました。その解答によると「放射能を除去するような裏ワザはない。5000年くらい経てば自然と汚染がなくなるかも」という絶望的なものでした。いかにゲーム上の時間といっても5000年とはあまりに長過ぎます。SIM CITYでは時間の経過の速さを変えることができますが、僕のPCでそれを最速に設定しても1年経つのに約4分かかります。ということは5000年だと20000分…、1日24時間やり続けたとしても約2週間かかることになります。やる気がなくなるくらいの時間です。しかし、僕は楽しい気持ちになっていたのです。何故ならその解答を寄せてくれた人は小学生だったからです。

 それ以来、SIM CITYに関してネットを通じていろいろな小学生たちと知り合いになれました。普通に生活をしていたら、絶対に知り合えないような人と交流を持てる、これがネットの面白いところです。なかには自分でサイトを運営している子までいました。SIM CITYに関してははるかに彼らの方が詳しく、いろいろな裏ワザを知っていたりしました。そして、意外なことがわかったのです。

 SIM CITYは都市を開発するシミュレーションゲームです。したがって、ビルがびっしりと建ち並び、交通機関が発達した人口の多い大都市を目指すのが当たり前だと僕は思っていました。実際にメガシティが誕生して目的を達成した後、今度は別のコンセプトで新しい都市創りをしようと環境などに配慮し、公園や木々の多い都市を創ろうとしても、やはりまた出来るだけ大きな都市に成長させようとしていました。しかし、ネットで知った小学生の多くは人口の多い大都会ではなく、農地が広がる田園をつくることに面白さを感じているようでした。SIM CITYをやったことのある人ならわかると思いますが、農地をつくるというのは都市をメガシティにするよりはるかに難しいのです。

 農地をつくるには広大なエリアを低密度工業地に指定します。そしてその周りに木々などを多く植え、さらに建物や道路などは最小限のものだけにして環境を整えないといけないのです。しかも、建物が建ち並び人口が増え、交通量が多くなったりして都市が発展して空気が汚れてくると、すぐに農地は小さな工場が建ち並ぶ工業地になってしまうので、都市の成長を抑えて常に環境に気をつけないといけないのです。

 SIM CITYは都市を発展・成長させるゲームです。僕も何もない土地に近代的な大都市を創ることに面白さを感じていました。しかし、小学生たちは都市の発展・成長させることより、農地を維持することを優先していたのです。彼らが大人になった時、日本も少しは成熟するのかもしれません。

 前へ、前へと前進することにしか面白さを感じなかった旧世代、周りを見回し調和を考える新世代。小さな先生にこのゲームの奥の深さ教わったような気がしました。(2004.4.28)




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