Into The Groove

 金曜日、約1年半アルバイトをしていたA君の送別会にでた。忘年会は回避してしまった僕も今回は職場の慣れ親しんだ人達だけで行なわれるとあって出席した。よく考えてみると、忘年会などは出ないことが多いのだけど、人の送別会とか、歓迎会とかはよく出ている気がする。特に送別会は会うのはそれが最後になってしまう場合もあるし、退職する人間は会社を辞めるという開放感もあってかいろいろな秘話を話したりするので面白かったりする。同じ職場の人が去るというのは寂しいことだけど、それは反面新しい旅立ちでもあるわけでただ哀しがっているだけではいけない。

 A君は今年30歳ではあるが、この2月まで専門学校の学生であった。学校も無事に卒業が決まり、就職するためアルバイトを辞めることにしたそうだ。だけど、まだ就職先は決まっておらず、これから探すとのことだった。今の職場は学校で勉強していることがそのまま活用できるので、アルバイトから社員になってしまったら?と言ったら「この会社は社員になったら休みも少ないし、サービス残業もあるからイヤだ。最低週休2日ですよ」と笑っていた。A君は学校のことなどもあり、週4日の勤務だったのだ。

 1次会は落ち着いた雰囲気の居酒屋で行なわれた。予約で個室をとっていたようで、他の客の煩い話し声も聞えず、落ち着いて酒を飲み、料理を食べ、会話を楽しむことができた。会社で飲み会をやったりするとみんないっしょの場所で飲んでいても、だいたいの場合、自然にいくつかのグループにわかれて会話をしていたりするものだけど、今回はそれほど人数が多くなかったということや個室だったということもあるだろうけど、みんなでひとつの話題を話すという形になった。みんな一体という感じで、取り残されている人もいないという新鮮な雰囲気の飲み会になり、楽しかった。

 2次会は歌って踊れる店に入った。いっしょに働いているパートの主婦2人がよく通っている店のようで店員の人とも親しそうに話していた。店の中央は大きく空いていて暗い照明の中、板張りの床の上で自由に踊れるようになっている。席は壁際に寄り添ってぐるっと配置されていてその一角にカラオケがあった。カラオケで流れる歌を聴きながら踊りたい人は自由に中央のスペースで踊っていいようだった。みんな1次会でかなり飲んでいたので、ほとんどの人がウーロン茶を注文した。

 前に聞いたところによるとA君は音楽好きだがそれは50年代のジャズに限られているようで、J-POPなどはほとんど聴かないということだった。僕も聴くのは洋楽ばっかりだし、ふたりともカラオケで歌えるような曲がなかった。それに普通のカラオケボックスとは全く違う。おふざけで‘ライク・ア・バージン’とか歌える雰囲気ではないのだ。女性陣も恥ずかしがって歌いに出て行くという勇気が起きないようだった。

 そんな中、社員のNさんとTさんがほとんど交互に歌っていた。Nさんは仕事中でも鼻歌とかよく歌っているし、Tさんは若い娘さんがいるので最近の曲にも詳しいようだった。僕もただ座っているばかりではまずいと思い、踊りたいといったら主婦のパートの人がうれしそうに「Hくん踊る?」と言ってSさんといっしょに踊ることになった。

 酔っているうえにステップなど全然わからず、まるでめちゃくちゃな踊りになってしまったけど、何故か物凄い開放感があり楽しくて仕方なかった。Sさんは店の人とも何曲か踊っていたけど、それを見るとなかなかの腕前のようで、僕と踊るときだけめちゃくちゃになるというのは、僕の責任がほとんどだということがわかってちょっと恥ずかしかった。

 しかし、そんな恥ずかしさを吹き飛ばしてしまうほど体をリズムに合わせて動かすことは楽しかった。Sさんと最後に体を密着させたチークを踊った。ただ、体を密着させてうろうろしている僕達を見て、他の人が笑っているのがわかりSさんの耳元で
「みんな笑っているようだよ」と言った。そしたらSさんは
「いいじゃないの。笑いたい人達には笑わしておけば」と言った。
「笑いたければ笑えか。俺たちは楽しいんだからどうでもいいか」
「そう、どうでもいいの」

 11時に僕とTさんは終電の関係から店を出た。Sさんが途中までおくってくれた。駅までの道順を間違えるといけないからということだったけど、僕はともかくTさんはもう7〜8年今の会社で働いているのだから道を間違える心配はなかった。だけど、Sさんはおくってくれた。3人とも千鳥足で車にぶつかりそうになったり危ない感じだったが、それもどうでもよかった。ただ夜風が気持ちよかった。(2004.2.21)




皆さんのご意見・ご感想をお待ちしています。joshua@xvb.biglobe.ne.jp
TOP INDEX BACK NEXT