大切なものを失ったとき

 土曜日、友人たちの忘年会に行きました。みんな以前の職場でいっしょに働いていた仲間で、よく考えたらもう10年以上のつきあいになります。当時、若い人だと20歳、一番年上の人でも30歳になったばかりで、結婚している人は2人、子供のいる人はひとりだけでした。それが今は20代の人はひとりもいなくなり、30代から40代前半にみんななり、約半分の人が結婚してそのほとんどが子持ちとなりました。昔、いっしょにキャンプに行って石投げをして遊んだ小学校3年生の男の子が今は中学2年生で身長が178cmになったなんていう話しを聞くとつくづくと年月の経つ早さと残酷さを感じてしまいます。

 男性は会社員として働いている人が2人、アルバイトをしている人が5人、お坊さんになった人がひとりとみんなそれぞれの道を歩いています。女性の方は専業主婦になっている人が多いのですが、ひとりカイロプラティクスの学校を出て、今は青山にある芸能人も来るという店で働いていて、将来は自分の店を持つのが夢という人もいます。

 話題も昔とは当然違ってきます。前は仕事や遊び、趣味の話しが中心だったような気がしますが、今は子供を中心とした家族の話題が多くなりました。男性はほとんどみんな以前より体も立派になり、いいのか悪いのかわかりませんが、貫禄がついてきました。この傾向は特に妻帯者に顕著でした。

 1次会が終わった後、3月に結婚したTさんの夫が軽自動車で向かいに来ました。Tさんもちょっと恥ずかしさもあったのかもしれなく、旦那さんの紹介はなく、足早に軽自動車に乗り込み去っていきました。旦那さんの方も遅くまで妻が飲み歩いているというのはまだ新婚の身では辛いのかもしれません。

 心配なのはI君のことです。彼は6月にそれまで勤めていた会社をリストラされました。その後、いろいろとアルバイト先を探していたようなのですが、なかなかいいところが見つからなかったり、バイト先で陰湿ないじめにあったりしてうまくいっていませんでした。

 しかし、10月くらいに前にアルバイトしていた会社でまた働けることになり、少し安心していました。仕事の経験もあるし、長期できるように思ったのです。しかし、その会社も業績は悪くなっているようで、最近は短期の採用しかしていないようで、昨日契約期間が終わってしまったそうです。再び彼は職探しをしなくてはならなくなりました。飲み会でもあまり元気がなく、自分の気持ちを消化できないでいる姿がありました。

 人を凧に喩えると仕事というのはその糸のようなものに思えるのです。家族もまたそういう役割をしているかもしれません。彼には守らないといけない家族はありません。仕事という糸が切れた今、家族という糸を持たない彼は風に流され大空を迷走しているように見えました。自分のオリエンテーションを失ってしまったのです。これは他人事ではありません。僕も彼と同じように家族という糸を持っていません。そして、アルバイトをしているもののいろいろと迷っている自分がいます。だから、彼の姿が自分に重なってみえるのです。

 僕も彼も糸の切れた凧のようなものなのかもしれません。糸がなければ空に浮かべない凧ではなく、自分の翼を持ち、自分の意思で大空を飛べる鳥になれたらと思います。しかし、僕にも彼にもそんな力は今はなさそうです。

 彼は仕事を失いました。仕事は大切なものです。その大切なものを失ったとき、どうすればその喪失感から抜け出し、人は前向きになれるのでしょうか?仕事だけではありません。恋人と別れたり、肉親の死に直面したりと人は大切なものを失ったとき、どうすればぽっかりと空いた心の穴を埋めることができるのでしょうか?特効薬のようなものがあるのでしょうか?それともただ時間が過ぎ、心が癒されるのを待つしかないのでしょうか?

 僕にはわかりません。ただ言えることはずっと降り続く雨はないというということです。そうです、今は冷たい雨が降っているけど、いつかは太陽が顔を出すのです。太陽から暖かい陽が降りそそぐまで、ただじっとがまんして冷たい雨に耐えるだけです。(2003.12.14)




皆さんのご意見・ご感想をお待ちしています。joshua@xvb.biglobe.ne.jp

TOP INDEX BACK NEXT