優先席

 金曜日に仕事が終わり、自宅に帰るため電車に乗りこんだ。車内は空いていてかなりの座席が空いていて余裕で座ることができたが、会社の最寄りの駅は比較的大きなターミナルなので多くの人が乗り込み、大方人が乗ってしまうと空いている席はちらほらという感じになった。ドアの横には立っている人の姿も見られた。そんな中で優先席だけがぽっかりと空いていた。

 電車のドアの閉まる寸前になって、サラリーマン4〜5人の集団が乗り込んできた。軽くアルコールが入っているのか、それとも仕事が終わった開放感からか、一寸騒々しい感じで辺りを見回して席を探していたが、そのうちのひとりがぽっかりと空いた優先席を見て言った。
「空いているから、ここに座ろう。来たらどけばいいんだから」
「そうだ」「そうだ」という感じで車両に両側に設置された3人掛けのお年寄りと体の不自由な人のための優先席はサラリーマンの集団に占領されてしまった。


 僕もこのサラリーマンのように考えていたことがある。他の席がうまっていて、優先席だけ空いている場合は座ってもかまわない。だって、お年寄りとか体の不自由な人が乗ってきたら席をゆずればいいだから…。

 だけど、よく考えてみるとそれは優先席に限ったことではなく、どの席に座っていてもいえることだ。とするとわざわざ優先席とかシルバーシートとか明示してそういったシートを設ける必要はなくなってしまう。どの席だってお年寄りとか体の不自由な人を優先して座らせるのは人間として当たり前のことだ。逆に優先席でないから席をゆずる必要はないと考える人がでてくる可能性もあり、優先席がかえってお年よりや体の不自由な人の邪魔になってしまうことも考えられる。

 ひとつの方法は優先席などを廃止してしまうことだと思う。すべての席がお年よりや体の不自由な人に優先されるべきなのだから、車内のわずかな席をそういったものに指定する必要などはないはずなのだ。

 もうひとつは優先席を専用席にしてしまう。お年寄りや体の不自由な人専用の席として一般の人は原則として座らないようにして、座っている場合でもお年よりや体の不自由な人を見かけたら率先してゆずる席とする。

 僕はどちらかというと、優先席など廃止してしまったほうがいいと思う。人間が人間らしく暮らすためには、システムなんかよりちょっとしたふれあいの方がはるかに大切のように思えるからだ。何でもシステマティックで無言ですむような社会は効率はよくなるかもしれないけど、怖い社会だ。それだったら「どうぞ」「ありがとう」と言葉を交わす温もりのあるほうがいい。

 優先席にかかわらず、最近の電車は昔の電車に比べると冷たくなった。自動改札に始まり、、プラットホームでは駅員さんではなく冷たい監視カメラが僕らの安全を見守っている。そして、山手線の通勤時に効率を最優先したような座席が使えない車両があり、それに乗り込むと自分が家畜になったような気分になってしまう。席もできるだけ多くの人が座れるようにとの配慮だろうけど、仕切りがついたものがあったり、ひとり分の区分けがしているものがあったり、色分けされているものがあったりと落ち着けない。

昔ののんびりとした電車が懐かしく思える今日この頃です。(2003.12.7)




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