通勤時間

 金曜日、やっぱり仕事はそれほど忙しくもなく、8時前に終わった。社員の人と駅までいっしょに帰ったとき通勤時間を訊かれた。
「駅はDだろ。30分くらいで着く?」
「いえ、40… 45分くらいかな。駅から15分くらい歩きますから」
「遠いね」
「Nさんはどのくらいですか?」
「30分くらいかな」
45分の通勤時間が長いか短いかは人それぞれだと思うけど、僕はとってはそれほど長くはない。だって以前、1時間40分もかかる会社に通勤していたこともあるのだから。


1時間40分の通勤時間は長いと感じるかもしれないけど、慣れてしまうとそうでもなくなってくる。特に僕の場合は東京から埼玉にある会社に通勤していたため、人の大きな流れと逆になり、また早朝ということもあってほとんどの電車で座ることができた。早朝の空いた電車でのまどろみながらの通勤は何ともいえない安らぎの時間だったように思う。

 ただ、やはりそうは言っても通勤時間が長いと辛いことも多い。まず、朝は6時、遅くても6時20分に起きないといけなかった。朝食をとることもほとんどなかった。半分眠っているような状態で家を出ていたから、ズボンの社会の窓が開いたまま会社まで行ってしまったこともあった。体調の悪さも通勤の途中で気づくことが多く、途中の駅から会社に欠勤の電話を入れたことも何回かあった。

 帰りも仕事が忙しいときなどは疲れが抜けず、長く感じた、そんなときは家が近い人がうらやましく思えたりした。そしてその次に勤めた会社は偶然にも家から自転車で10分くらいのところになった。だけど、だめだった。ちょっと変な言い方かもしれないけど、家から近すぎたのだ。

 前の会社では通勤時間が長かったため、会社でいやなことがあってもそれが家に着くまでに自分の中で消化できた。途中にはいろいろな店もあるし、都会の風景を車窓から見たり、流れている人達を目で追っていたりすると結構気が紛れた。だから、会社での気分が家のなかに入りこむことがなかった。

 だけど、自転車で10分となると、あまりにも近すぎて会社での気分が変わらない。そのままの気持ちが部屋の中まで持ち越されて、居たたまれなくなってしまうこともあった。いやなことがあった日などはちょっと遠回りして帰ったりしていた。

 とすると今の通勤時間の45分くらいはちょうどいいのかもしれない。通勤で疲れるということもないし、アルバイトという立場のせいもあると思うけど、会社での気分が続くということもない。

 それと僕は通勤時間はぼーっとしていることが多い。通勤時間に1時間40分かかっていたときもほとんどの時間ぼーっとしていた。本とかを読んで少しでも有意義に過ごそうと思ったことがあったけど、動いているもののなかだと何故か集中できなくて止めてしまった。読むものといったら、金曜日の帰りに買う競馬新聞くらいのものだった。競馬新聞だけは何故か集中できた。

 仕事で疲れた頭と体を癒すにはやはりぼーっと流れる風景を車窓から見たり、乗り降りする人達を眺めている時間が僕には必要な気がする。よく、無駄な時間の代表としていわれる通勤時間だけど、僕にとってはなくてはならない時間なのだ。(2003.11.29)




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