くたばれ!サービス残業


 アルバイトを始めてから1ヶ月が経った。長かったような、短かったような…でも新しい職場というのはいろいろと疲れる。仕事にも慣れてないし、そこで働いている人も当然、初対面の人ばっかりなわけだし、いろいろと気を使うことが多いからだろう。ただ、幸いなことに僕の部署には同期で入った人が他に2人いるので、多少は救われているような気はする。

 1ヶ月も経つと、仕事にも、職場の雰囲気にも馴染んでくる。そして、会社の問題点なんかも多少は目に付くようになる。今の職場はそんなに古い人が多くはないけど、いっしょに入った人が以前に働いていたパン屋はすごかったらしい。

 どうすごかったかというと、回りはみんな長くやっているおばさんばっかりで、新しく入ってきた人に対してはかなり冷淡だったそうだ。まだ仕事ができないから疎ましく思うのだろう。そこでいろいろないじわるやいじめが始まる。わざと、肘で突いたり、口汚く罵ったり、きつい仕事を延々とやらせたり…。若い人が入って来たりすると、自分の雇用が心配になり、仕事を教えなかったりして、辞めていくように仕向けたりするから、新しく入った人はすぐに辞めてしまい、職場は流れない水のようにますます悪臭を放つようになってしまう。

 幸いにして今の職場ではそんなことなく、比較的みんな和気あいあいとやっている。しかし、それは表の顔で、ちゃんと裏の顔を持っているのが会社というものかもしれない。アルバイトには関係ない話なのだけど、社員の人は残業した時間の半分しか残業代がでないらしい。今、何かと問題になっているサービス残業というやつだ。ある社員の人は80時間も残業をしたのに、ついた残業手当は40時間分だけだったそうだ。さらに、タイムカードのコピーを取ることも禁止という通達が出たなどという話もあったらしい。

 そして、僕と同じ年の社員の人がその体制に嫌気がさし、今月で辞めることになった。彼の話だと、会社の体制を批判して、当然会社が支払わなければならない未払い分の残業代を請求した社員は過去にひとりしかいないということだった。

 ここで思うのは会社の態度は言語道断だけど、それに黙々と何も言わず従っている社員も僕にはよくわからない。いや、その気持ちはよくわかる、だけど…なのだ。下手に会社に反旗をひるがえして、上層部ににらまれて仕事がしづらくなり、さらには会社にいづらくなるよりも、とりあえず暮せるだけの給料も出ていることだし、大騒ぎするよりも大人しくしていたほうが利口だと考えるのはある意味賢明な選択なのかもしれない。しかし、サービス残業とオブラートに包んだような言葉にされてはいるが、人を無給で働かせる違法行為だ。誰だってそんなことはわかるはずだ。

 日本人は物事を荒立たせるのを嫌う。できれば何でも‘なあなあ’でやっていきたい人種だと思うし、僕も‘なあなあ’は嫌いじゃない。だから、物事を荒立たせる人物が現われると袋叩きにあったりする。最近では辞任を拒否した道路公団の藤井総裁などがそのいい例だろう。ほとんどのマスコミは彼を袋叩きにし、多くの人もそれを後押ししている。僕もマスコミなどの情報をみるかぎりでは、あまりよからぬ人物だとは思うけど、彼には辞任を拒否する権利もあり、争う自由もある。だから、本人がそれを望むのなら、世間で何を言われても徹底的に闘って、自分の主張をどうどうとすればいいと思う。

 以前に勤めていた会社で解雇を言い渡されたアルバイトの女性がいた。彼女は自己主張が強く、反抗的なタイプらしく、職場の上司から使い難いとの評価が下され、辞めてもらおうということになったらしい。そんな性格だから社員にもアルバイト仲間にも冷たい目でみられ、クビは当然とする空気があった。確かに性格には問題はあった、だけど、彼女はクビになるほど問題があるとは僕には思えなかった。

 そして会社と彼女の闘いが始まった。彼女は会社を不当解雇を県の共産党関係の団体に訴えたのだ。会社にもその団体の関係者が事情聴取に来たりして社内は騒然となり、彼女を非難する声に満ちた。他人と違う行動をする人間を異端児として叩く日本社会の縮図が確かにここにあった。僕は彼女の行動を悪いとは思わなかった。解雇を不当だと思うのなら、争うことは当然のことだ。自分が納得するまで、徹底的に争えばいいのだ。

 結局、会社が1ヶ月分の給与を払うことと、次の職場を斡旋することで示談が成立した。会社の中では彼女を非難する声で満ちた。だけど、僕はまあまあ公平な裁定だと思った。

 しかし、人を無給で働かせるサービス残業は話し合いの余地などない、100%の違法行為だ。このような悪しき習慣は完全に社会から撲滅して、許してはならない。彼は退職後、未払いになっている残業代を請求する訴えを起すと言った。だけど辞める覚悟をしたのなら、会社に残って告発してもらいたかった。このような問題に対抗する手段はただひとつ、‘不当と思われることには絶対に従わない’という強い信念だと思う。

くたばれ!サービス残業。(2003.10.11)




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