昼の風景、夜の風景


 アルバイトを始めてから2週間になる。昼はバイト仲間といっしょに食事に行くことが多い。さいわい自分の通っている会社は比較的大きなターミナル駅が最寄りでその構内にかなりいろいろな種類のものが食べられる空間がある。値段も安い。

 近くにランチをやっているおいしそうな店もあるのだけど、時給900円を考えると昼食に約1時間分の働きをつぎ込むのはちょっと気が引けてしまう。それで昼はだいたい駅まで行く。

 パン、おにぎり、うどん・そば、パスタ、ピザ、カレーライス、ビビンバ、たこ焼きなどの各店舗がひとつの空間に集っていて、その中心に自由に座れる席があり、各店でたのんだものをそこで食べられるようになっている。おおむね料金も安くてだいたい400円以内で食べられるのもうれしい。だけど、昨日などはパンを買い過ぎてしまい、昼食に850円も使ってしまった。また来週からは引き締めていかないといけない。

 昼の駅は華やかだ。改札は常に人を吐き出し、飲みこんでいるし、いろいろな人が行き交っている。その食事ができる空間はありとあらゆる年代の人が来ていて、見ているだけで楽しくなってくる。お店の方もパン屋さんなどは若いきれいな女の店員さんばかりで面接のときにかなり選んでいるのかな?という気がするくらいだし、うどん屋のおばちゃんも元気だ。

 ところどころで楽しい会話の花が咲き、携帯の着信音が鳴って、営業マンが忙しなく動き回っている。静かにコーヒーを飲みながら本を読んでいる人、物思いにふけっている人、誰かと待ち合わせをしている人…

 しかし、夜の9時まで残業をして見る駅の構内の風景は全く違う。店はすでに閉まっていて辺りには寂寥感が漂っている。そして、壁際にはいくつものふとんがひかれていて、ダンボールの上で寝込んでいる人もいる。雨風が防げる駅の構内は路上生活者にとっては夜を過ごすには絶好の場所なのだろう。ここだったら、わけのわからない若者に襲われる危険性も少ないような気がする。彼らのわきを仕事で疲れたサラリーマンが足早に家路に向い、通り過ぎていく。静かなそしてたぶん穏やかな彼らの夜が更けて行く。そして朝がくれば彼らはダンボールやふとんを片付けて、姿を消し、出勤する人々が行き交い、また忙しい朝が始まる。

 昼の風景とは全く違う夜の風景がここにはある。光が強ければ強いほど、そこにできる影は濃くなる。そんなに強い陽はいらない。今の季節のようなやさしい陽がみんなに差してくれればいいなと思う。(2003.9.27)




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