草むらの中の猫


 久しぶりに朝早く職安に行った。昨日も昼くらいに行ったので、今日はネットで見るだけにしようと思っていたのだけど、買いたい物がいくつかあったので、そのついでにちょっと寄って見ようと思ったのだ。昼くらいには部屋に戻りたかったので、逆算すると朝一という時間になってしまった。ただ、朝一といっても職安まではいつも通り歩いて行ったので実際に着いた時は9時を回っていた。

 昨日もそうだったけど9月に入って、かなりの混雑になってきた。8月中はいくと待たされるということはほとんどなかったけど、昨日、今日と検索機が満杯状態で特に今日は僕が行った時点で10人くらいが並んでいた。どのくらい待たされるのだろうかと不安になったが、割合とすぐに順番が回ってきた。

 求人検索機の前に座りすぐに使い始めたのだが、反応が遅い。これは多くの人がアクセスしているのが原因だろうかなどと思った。しかし、使っているうちにいつもと同じような感じになってきた。調子が出てきて快適に検索をしていたが、急に画面が真白になってしまった。これは一体?特に何も悪いことも間違ったこともしていないはずだがと隣の人の画面を覗き込んでみるとやっぱり真白になっていた。そして、その隣の人も同じ状態だった。隣の女性が係員に声をかけようとしたとたん、画面は元に戻った。しかし、よく見ると完全に元通りというわけではなく、画面の下側にタスクバーが表示されており、スタートボタンだけがぽつんと浮かんでいた。

 このスタートボタンを押すとどうなるのだろうか…という好奇心が起き、画面に浮かんでいるボタンにタッチしてみると消えてしまい、いつも通りの画面に戻った。な〜んだとちょっと拍子抜けした気持ちとやっと元に戻ったという安堵感が混じった複雑な気持ちになった。

 この後、職安を出て山手線を使い渋谷に向かった。買いたい物の1つは帽子だった。僕が持っている帽子といったら数年前に友人からもらった阪神の野球帽だけなのだ。阪神戦を観戦しに行くときはこれをかぶるのもそんなに恥ずかしくはないのだけど、普段はかなり抵抗がある。阪神に限らず最近はプロ野球球団の帽子をかぶっている人間など子供を含めても見かけることはない。僕が子供の頃などは巨人軍の野球帽をかぶっている子供などゴマンといたし、少し経って岡本太郎がデザインした近鉄の野球帽が流行ったりしたが、何でここ最近はこんな状態になってしまったのだろうか?

 渋谷で地味な色をしたあまり感じの目立たない帽子を買い、帰路に着いた。もう1つの買いたい物はサンダルだった。昨日の夜、履歴書を郵送するために近くの郵便ポストまで出しに行った時、誤魔化し誤魔化し履いていたサンダルがついに壊れてしまった。今までも2回壊れたのだが、何とかゴム専用の強力接着剤を使い直した。しかし、それももう限界のように思え、買うことにしたのだ。

 僕は夏に外出するときは雨でも降っていない限りサンダルを履く。会社に勤めていたときも通勤はサンダルを履いていた。さいわい人に会う仕事でもなかったので、特別なことがある時以外は服装に関して自由だったのだ。だから6〜9月くらいの間はずっとサンダルを履いて通勤していた。僕にはこの蒸し暑い日本で真夏に革靴を履いている人の気が知れない。

 家の比較的近くに靴を安売りしている店があったのでそこに寄ってできるだけ丈夫そうなものを買った。コンビニで昼食用の弁当を買って、部屋に帰るとちょうどお昼だった。昼食をとり終えて部屋でごろごろしていると、陽が差して来た。窓から外を見ると、雲も多いが雨は降りそうにない。ずっと陽が照っていても暑いし、雲が空を覆っているようだとあまり外出する気にはならない。だけど、今日はこれから晴れたり、曇ったりと繰り返しそうな感じがする。風も気持ち良さそうだし、外で読書なんていいかもしれない。帽子もサンダルもせっかく買って来たことだし。

 そう思い、多摩川の河原まで行ってベンチに寝転びながら本を読んだ。想像通り太陽はそんなにきつくなく、風が心地よかった。眠くなったら、本をアイマスク代わりにしてうとうとした。

 ふと目の前の草むらに目を移すとで何やら動くものが見えた。目を凝らすとそれは猫だった。川のすぐ近くに立っているホームレスの小屋がこの近くにある。その小屋の玄関の前によく白に黒ぶちの猫が2匹寝転んでいるのだが、そのうちの1匹のようだ。草むらの中で猫の頭と背だけが見えていた。そして少しづつ前進をしている。何か獲物を狙っているようだ。その場面だけを切り抜けばまさに野生動物を撮影したドキュメントフィルムを見ているようだった。

 普段はあまり見られない野生の中の猫を見ているようで胸が高鳴った。一体何を狙っているのだろう?この辺りは小鳥が多いからその可能性が高いが、或いはヘビなどということも考えられる。何せ野生美に溢れるハンターなのだ。猫はさらに用心深く身を低くして獲物に近づいていく。僕からは猫の耳と背の一部が見えるだけになっていた。

 そして終に…という具合に猫が一気に動いた。周囲の草むらが揺れた。狩りは成功したのだろうか?僕は猫の気分を損なわない程度に近づいて見た。猫の口には獲物が捕らえられていた。それはこのやはり辺りにいっぱいいるバッタのようだった。(2003.9.3)




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