秋の使者


 やっと少し夏らしくなってきた。久しぶりに職安に昼くらいに行った。お昼時は比較的空いているので、ややのんびりとした気分で検索できるのでいい。いくつか自分にできそうな仕事をピックアップして一時過ぎに職安を出た。職員の人の話によると8月はやや求人も減るそうで、9月になればいい求人も出て来るかな…と期待してしまうが、あてのない期待だし…。それにしてもいまひとつやる気が起きない。

 職安を出て渋谷に向かった。プリンタのインクがなくなりかけていたので、ついでに買いに行こうと思っていたのだ。久しぶりに山手線に乗り、渋谷で降り、ビックカメラに向かった。街にはいろいろな人が溢れていた。年齢も服装も様々だ。私は東京生まれだけど、あまり東京は好きじゃない。だけど、どんな人でも飲み込み、保護色にしてしまうところは好きだ。金太郎ルックでおへそを出している露出度の高いお姉さんだって、ボロボロのジーンズに首の伸びきったTシャツを着ている青年だって、ペコちゃんの顔が大きくプリントされたTシャツを着ているおばさんだって、みんな都会の風景に溶け込んでひとつの景色になっている。

 ビックカメラは平日でもうお盆休みも終わっているはずなのにかなり混んでいた。プリンタを買ったときはすぐに見つかったプリンタのインクも、今は型が古くなってしまったせいかなかなか見つけることができず、どうにか棚の一番下に置かれているのを発見した。これはそのうち買いだめをしておかないと、不安である。プリンタはまだ動くのに、そのインクが生産中止にでもなって使えなくなったら、何ともやり切れない気がする。

 帰りは山手線に乗らないで、ブラブラと歩いた。電車賃を節約するといった意味もあるけど、何となく歩きたくなった。幸いそんなに暑いというほどでもなく、見なれた街の光景を楽しんできた。恵比寿ガーデンプレイスでは何処で繁殖をしたのか、かなりの数のトンボが飛んでいて、すぐそこにいる秋の使者のようだった。すると今度はセミの鳴き声など聞えてきて、まだまだ夏だよと合唱している。散歩をすると大したことではないけどいろいろと楽しいことに巡り合える。

 そういえば、数日前の新聞にスペイン人が夕方に大挙して散歩に繰り出すことを書いたコラムがあった。スペインの人達は夕方仕事が終わると、散歩に繰り出し、店をのぞき、大道芸を楽しみ、カフェで肴をつまんだりして楽しんでいるそうだ。それに比べて日本は、道路は車に占領され、時間はTVに支配されているとこの記事を書いた人は嘆いている。物質的には世界でも最も豊かな国のひとつになった日本だけど、それによって失ってしまったものはあまりにも大きいような気がする。

 さて、真昼間の散歩から帰ってきた私だったが、ここのところやや夏カゼ気味だったせいか、寝込んでしまった。何とも情けない…。

 夜、窓を開けながら寝ていると、夜風が気持ちよく入ってきて、気分はかなりよくなった。夏というより、もう秋に近い風のような気がした。すると何処からもなく虫の声が聞えてきた。こんなコンクリートとアスファルトで囲まれた世界でも、虫は生息しているのかと、その逞しさが楽しくなった。数はそんなに多くはないけど、合唱としてはちょうどいいかもしれない。涼しい微風に虫の声… そして私はウトウトと眠りについた。(2003.8.22)




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