水のような生活


 久しぶりに昔の仕事仲間11〜12人と飲んだ。ちょうどその中のひとり、Tさんが3月に結婚をしたのでそのお祝いもかねて集まった。Tさんは30を少し超えた女性だが、お相手はまだ20代半ばで何か秘策をもって落したのではないかと声も出ていたが、Tさんは笑うだけであった。

 会社でリストラされてみんな心配をしていたI君もちょっと遅れてやってきた。当然のことながらあまり元気はなかったが、今度のことを電話で連絡した幹事によると、その時に比べればだいぶ明るくなったということだった。

 I君は‘とにかく死にそうだった’と言っていた。彼は今、家賃6万円のアパートで一人暮らしをしているが、その家賃も2〜3ヶ月滞納していて、さらに丸井に借金があり、両方を合わせると約30万円になるという。処分はできるのはすべて売ってしまったとのことであれほど好きだったクラプトンのCDも手放してしまったとうなだれていた。

 リストラされた後、ミスタードーナツでアルバイトをしたが、店長の陰湿ないじめにあって数日で辞め、現在は2ヶ所掛け持ちでアルバイトをしており、休日が一日もない状態らしい。数人でいろいろと考えたが、とりあえず家賃6万円の出費は大きいので滞納した家賃は必ず返すと誓約して、もっと安いアパートに引っ越した方がいいと結論になった。家賃を滞納したまま、引っ越せるかどうかというのは交渉次第だろうが、何とかなりそうな気がする。

 そんな彼に中心になってアドバイスをしていたのは僕よりちょっと年上のUさんだ。Uさんは今40歳だが、大学を出てからずっとアルバイトをして暮らしている。正社員という窮屈な立場を嫌って、気楽なバイト生活を選んだらしい。僕とUさんは競馬友達でもあり、たまにいっしょに競馬場に行ったりしていたが、この飲み会で僕が知らなかった彼の一面が見えた。

 Uさんのお父さんは昔、事業で失敗したことがあるそうで、その時の借金の一部を彼が返済しているということだった。アルバイトをしながら父親の借金の返済を手伝うというのはかなり大変なことだと思うが、Uさんは生活にあまりお金をかけない。現在借りているアパートは月16000円だそうだ。風呂もなく、ガスも引かれていないそうだが、風呂は大家さんに頼んで1日おきに入れるそうで、ガスも一人暮らしだからカセットコンロで十分と笑っていた。移動の手段はもっぱら自転車で、物もほとんど買わず、パソコンは持っているけどそれも友人から1万円で譲ってもらった物だ。

 アルバイトだといつクビになるかわからない。将来に対して不安はないのか訊いてみたら、先のことはあまり考えないと言った。これから先、社会がどうなるかもわからない。だから今からいろいろ考えて、心配しても仕方ない。年をとったらとったで生きていく方法はいろいろとあるから、それはその時になってから考えればいいことで、今を生きていくことの積み重ねが未来だから、それを勝手に想像して不安がるのはおかしいと話していた。

 老人になったらシルバー人材センターもあるし、生活保護もあるからと笑った。Uさんも不安に襲われることはあるだろうけど、それを抑え込んで淡々と暮らしている。
過去の愚痴を言わず、未来の不安を口にせず、その日、その日を淡々と生きる、強い主張をしない水のような生活。

 普段はあまり冴えない感じのUさんだけど、この日は光って見えた。それは彼の髪の毛が薄くなってきたせいもあるだろうけど…(笑)(2003.7.15)




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