職安奮戦記 2 −認定日−


 今日は失業の認定日だったので久しぶりに職安に行った。認定の時間が8時45分からだったのでそれに合わせて8時30分過ぎに家を出る。幸にして雨は降っていないのでチャリンコを使うことにした。それにしてもこの1ヶ月で職安には2回しか行っていない。これはほとんど最低に近いだろう。というもの失業した人ならわかっていると思うが、失業手当をもらうための条件として、その認定期間中に最低2回の求職活動の実績が必要になる。

 昔は新聞の求人欄を見たとか、求人誌を買ったとかでも求職活動の実績になったらしいのだけど、最近はその条件が厳しくなってしまい、ただ見ただけでは認められなくなってしまった。求人欄を見てさらに応募までしないと求職活動に実績として認められなくなった。応募した会社の電話番号や担当者まで認定書に記入しないといけないので、いい加減なことを書くことはできない。

 ただ、職安の自己検索機は別でこれは確かに閲覧したというハンコをもらえば求職活動の実績になる。だから、当面働く気がなくても、失業手当をもらいたい場合は職安の検索機でおざなりの閲覧をするのが一番手間はかからないということになる。これは別に私がそういう戦略を立てているということではなく、あくまでも一般論としてである(^^;

 だけど、私の2回の閲覧もややおざなりではあった。いいところがあれば…と思ったのだけど、そうそうあるものでもない。焦りは禁物で、やはりここはじっくりと行った方がいいだろう。そうしないとまた前の繰り返しになってしまう。前の会社からの離職票もあるので、やっと手当がもらえる。これでとりあえず一息はつける。

 腕時計を持っていないので、職安についた時刻はわからなかったが、もうかなりの人が待っていた。家から職安まではチャリンコなら20分はかからないような気がする。ということはまだ8時50分前くらいだが、みんな来るのが早いなと思って失業認定書を見たら‘受付は認定開始時間30分前より’と赤いスタンプが押されていた。今まで何回も来ているのに始めて何故早い時間に来ている人が多いのかわかった。

 私も失業認定書を8時45分〜9時15分と書かれた紙が貼ってあるクリアケースの中に入れて空いている席に座った。前の席には30代くらいの女性が座っていて、不安そうな目をしてあちこちを見まわしていて、その左隣の20代前半くらいと思われる女性は退屈しのぎに熱心に本を読んでいた。その本は何処かの図書館で借りてきたもののようで、背のところにラベルが貼ってあった。私の両隣にはそれぞれ年配の男女が座って、静かに順番を待っている。

 だいたい何処の場所でも時間が経てば気持ちは落ち着いてくるものだけど、職安の場合は時間が経つとだんだんとイヤな気持ちが広がってきてそわそわしてきてしまう。早く処理を終えてほしいと思うが、なかなか名前は呼ばれない。たぶん、回りの雰囲気が徐々に自分の気持ちの中を侵略してくるせいだろう。

 前に座っている30代の女性の右隣は空いていたのだが、そこにまだ20代と思われる髪の毛を長く伸ばした男性がやってきて座った。売れないミュージシャンという感じだったが、彼は始めから落ち着きがなく、そわそわしていて、さらに目の回りがイヤな感じで黒ずんでいた。悪い薬でもやっているのではないかと思わせるほど不健康な雰囲気だ。

 すると私の横に座っていた年配の女性は彼に何かを感じたのかまだ自分の名前が呼ばれていないのに席を立って足早に何処かに行ってしまった。その若い男性は明らかに態度が不信で、時間が経つとそわそわにイライラが加わったような感じになり、そのうちわけのわからないことをわめき散らして暴れ出すのではないかと私は心配した。次ぎは何が加わるのだろうと思うと、私はもう自分の名前よりも彼の名前が早く呼ばれることを祈らずにはいられなかった。

 そんなことを考えている間に私の名前が呼ばれほっとしたのだが、それは給付ではなく、書類上での確認事項があったためで、それが終わると「じゃー、名前が呼ばれるまでお待ちください」と言われ、またもとの席に戻ることになってしまった。目を開けていると不安な気持ちが多くなりそうなので目を閉じたが、それはまたそれで不安なので時折目を開けて彼の状態を確認した。そして、やっているかどうかもわからないのに、彼の薬がどうにか切れませんようにと祈った。

 そのうち次々と名前が呼ばれ始めたが私の名前はなかなか発音されなかった。私の真向かいに席に座って不安そうな目をしてあちこち見回していた女性の名前も呼ばれたし、ヤク中ではないかと私が疑っていた挙動不審の髪の長い男性の名前も呼ばれ、私はやっと落ち着いてのんびりとした気分になれた。

ふと気づくとほとんど埋まっていた席も空いている方が圧倒的に多くなっていた。職安の中の時計を探して見るともう10時近い。9時45分からの組の人の名前も呼ばれ始めたようで、今度は私がイライラしてきてしまった。忘れられているのかな?それともひょっとしたら目を閉じていた時に寝てしまいその間に呼ばれてしまったのかもしれないといろいろな考えが浮かんだができることは待つことだけだった。

 私の斜め前に座って本を読んでいた若い女性もまだ名前が呼ばれないらしく、本にも疲れたようで、目を静かに閉じていた。私はまだ彼女が残っていることで、気持ちが少しは落ち着いた。そうしているうちに残っている人は数えるくらいになってしまい、ついにという感じでその女性も名前を呼ばれ、去っていった。その女性がいなくなってしまうと急に寂しさが寄せてきた。自分だけが誰からも見えない透明人間になってしまったような錯覚に陥った。

 昔、友達とレストランに入ったとき、友達の料理はすぐに出てきたのに、私の注文したものがなかなか出てこないでついに待ちくたびれウエイトレスに訊いたらやっぱり忘れられていたことがあったが、そんなことまで思い出してしまった。もう、このまま放って帰ってしまおうかとも思ったが、そんなことをしても何にもならないし、最後の独りになるまで待ってみようと心に決めた。

 そんなことを決断したとたん、自分の名前が呼ばれた。雇用保険受給資格証をもらい裏面を見ると自分で計算した額よりもやや少ない。雇用保険も減額されるそうだが、まだ先のはずだし…と思い、帰りながらよく見てみると、前回の分は別に計算され、上の欄に印字されていた。両方を足すと計算通りになった。何であんなに待たされたのか、その理由も何となくわかった。たぶん、前回と今回の2回分の手続きをしていたせいなのだろう。

心配していた雨もまだ落ちて来ていないし、ちょっと遠回りをして帰ろうと思った。(2003.6.13)




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