散歩の日々


 自分は暇なのでよく散歩に行く。コースは遠いところから近くまでいろいろあり、その日の気分や天候によって何となく決まってしまう。比較的近くのコースでは自宅から約2Kmくらいの距離にあるH八幡宮までで、桜並木がつづく道をのんびりと歩く。ここは僕だけでなく、多くの人が歩いている人気コースだ。花の時期はピンクのトンネルになるし、今の時期は新緑をやや過ぎた深い緑が頭上を覆ってくれて、日中でも涼しげではある。道の所々にもベンチがあり、そこで休んでいる人も多い。

 最近、夜はあまり行ったことはないのだけど、前にこのコースを夜中にジョギングしていた時は歩いている人やジョグをしている人が多くいた。でも、散歩とウォーキングは別物のような気がする。ウォーキングは体のためという感じで一心不乱に歩いている感じだけど、散歩は体というよりは心のためにブラブラとあっちを見たり、こっちを見たりだ。

 このコースを散歩するときは必ずH八幡宮にお参りをする。お願いすることは競馬で勝てますようにというふざけたものから、家族の健康を願うといった崇高なものまで様々だが、賽銭箱にはいつも9円しか入れていない。9円ではどんなお願いも叶いそうにないが、何故か僕は9という数字に縁があるのでそうしている。誕生月は9月だし、日の方も十の位と一の位を足すと9になるし、前の会社の社員番号も99だった。あと、財布の中にたまった1円玉を整理できるせいも多少はあるかもしれない。

 家の近くを流れている川沿いの道を散歩することも多い。この川はちょっと昔はどぶ川の様相を呈していたが、最近は水がきれいになったせいか水鳥なども見かけることがある。川の造作もただ単なるどぶ川のそれから、化粧石などを使い清流を演出するようになった。だけど、それはあくまでも演出に過ぎない。僕の父親が子供の頃は泳げたそうで、魚なども手掴みで獲れたらしい。今はいくら化粧石などを使ったとしても、川の中に入って遊ぶなどということはできないで、ただ見るだけの川になってしまった。

 そういえば関東地方も梅雨入りしたし、これからは雨の日が多くなりそうだ。雨が降ると散歩もついつい億劫になってしまう。だから、今日は天気も雲は出ているが、雨は降っていないし、まあまあ涼しそうだし、ちょっと遠くまで行ってみようと思った。

 福山雅治が歌ってヒットさせた‘さくら坂’まで行ってみようと思った。さくら坂は家からはかなりの距離があるけど、歩いて行けない距離ではない。散歩に出るのは午後の方が多いのだけど、気分がよかったから簡単な朝食をとった後、すぐに出かけた。まず、家の近くに通っている大通りに出て、あとはその道を延々と歩く。ジョギングしている人はいるが、さすがにこの道をのんびり散歩を楽しんでいる人はいそうもない。1本奥の裏通りでもあればいいんだけど、そんな道もなく、住宅街の道だとあっちに行ったり、こっちに行ったりとかなりの距離を歩かされることになり、さくら坂に辿りつけない可能性もある。

 前の会社で主に配送をやっていた同僚の話によると、花の季節は平日でもかなりのギャラリーが集るらしい。夜になると車がそこいら中に路上駐車していて、かなりの渋滞になってしまうとのことだった。だけど、その同僚はさくら坂近くにある得意先に行くのを楽しみにしていた。部屋の中でずっとMacで入力の仕事をしていた僕は彼がうらやましくて、今度は俺に行かせてくれとそれとなく社長やその同僚に根回ししたけど、結局その願いは叶えられなかった。

 だけど、今の時期はあまり人通りもなく、ひっそりとしている。都内とは思えないほど懐かしい風景がある。桜の木々は車道よりも3〜4m高くなっている歩道に植えられていて、車道に覆い被さるようにその枝を伸ばしている。陽は出ていたとしても桜の木々の葉で薄暗いところだけど、今日のように雲が出ているとさらに暗くなり、心が落ち着く。大きく深呼吸をすると緑臭い空気が鼻腔に満ちて、心はさらに落ち着いていく。しばらく赤く塗られた歩道橋に上でぼーっとしていた。

 あまり、動きたくない気分だったが、ここから多摩川の土手までは近いので行ってみることにした。さくら坂は閉じて取り残された不思議な空間という感じだけど、多摩川の土手に出ると解放感が心に広がり、自分が空に溶けてゆくようは感覚になった。平日の午前中は最近あまり行ったことはなかったけど、朝の爽やかな空気がまだ残っている感じだ。

 多摩川の土手をブラブラとほっつき歩き、土手沿いの道に出たら急に疲れが出てきて、帰りは電車に乗ることにした。行きはよいよい帰りは何とか…という感じだ。家には昼くらいに帰ってきた。チャーハンを作り、インスタントの味噌汁といっしょに食べたら、眠くなったので窓辺に移動して、サッシを開けて、その場所にゴロリと横になったらいつの間にか寝てしまった。これではいくら早起きをしたとしても意味がない。夕方くらいに目が覚めて鏡をみたら顔に枕代りにした座布団のしわがうつって、2本の線が付いていた。(2003.6.11)




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