僕がこの前まで勤めていた会社は給料が銀行振込ではなく、今では珍しい手渡しでした。そのため退職を表明し、仕事を辞めた後、しばらく経って給料を貰いにいくということをしなくてはならなかったのです。銀行に降り込んでもらいたいという旨を伝えたのですが、家が近いということもあり、それに退職時にもらう書類も残っていたため、こういう生産性のないことに時間を使われるのはイヤだったのですが、押し切られてしまいました。 5月1日、その日はヤンキース×マリナーズがNHK総合でTV中継されていたので、衛星放送を見ることができない環境にいる僕はそれをゆっくりと見ていたかったのですが、会社の指定時間が午前中ということで、後ろ髪を引かれる思いで10時に家をでました。会社までは自転車で12〜13分くらいなのですが、何故かこのときは自転車で行く気にならず、トボトボを歩いて行くことにしました。 天気はよくて始めはちょっとしたピクニック気分だったけど、会社に近づくにつれ足取りは重くなってきて、普通に歩けば20分前後でついてしまうのだけど、このときは30分くらいかかってしまいました。会社の入口に着くと緊張はピークになって心臓のドキドキという鼓動が感じられました。こんな時に「よおぅ!」とか言いながら入っていける勇気がほしいものです。
会社に入って社長がいつもいる2階の事務所に入ると社長の奥さんがいつもの席で事務を取っていて社長はお客さんと話していました。
「まあ、辞める辞めないは君の勝手だけど、いきなりに言われても困るんだよな」
と明らかに怒りを何とか押さえているといった口調で社長が言いました。だけど退職を表明するときはだいたいが‘いきなり’になってしまうのではないでしょうか?会社を辞めたいという気持ちをそれとなく態度でわからせるようにしておけばよかったのか?…その態度って?…と頭の中ではいろいろな考えがぐるぐる回り、うつむいたまま考え込んでいると、社長はさらにイライラしてきたようで
‘1日とか、3日とか来て来なくなったのはいっぱいいるけど、君のように2ヶ月まともに出勤して、さらに試用期間が終わり、正社員になることに合意したのに、その後1ヶ月も経たないうちに辞めるなんてふざけている。どうせ辞めるのなら試用期間が終わったときに、やる気がないということをいうべきだ’ 僕が仕事を続ける気持ちがなくなってしまった理由はいくつかあるのですが、一番の理由はものすごい閉塞感でした。まずその日の仕事の最終的な予定がわかるのが19時くらいなので、日中にどんなに暇であっても2時間程度の残業になってしまいます。だから平日の夜に予定はいっさい入れられないのです。社員はみんな平日にはいっさい予定をいれていないようで、「今日、友人と飲みに行くから定時で帰る」なんて言い出す人はひとりもいませんでした。19時の時点で今日中という仕事がいっぱい入ると12時をかるく超えてしまいます。特に連休の前日はその傾向が強く、徹夜に近い状態になります。ただ、社長の甥が専務をやっているのですが、この人が休日出勤が嫌いなようで金曜日はどんなに遅くなってもすべての仕事を片付けて土曜日は休みということにしていました。酷い時は土曜日の朝の7時までやっていたこともありました。
そして私用の有給休暇はまず許可されないということでした。僕がいた3ヶ月の間、休暇を取って休んだ人は1人もいませんでした。体調が悪くても簡単には休めない雰囲気がありました。社長も誇らしげに有給休暇を取る社員なんていないと言っていたことがあります。
そして終には
少しは抵抗をしようと思い、最後に職安の求人票に書かれている残業時間は明らかに嘘だから訂正しておいた方がいいと指摘しました。求人票には1ヶ月の平均残業時間30時間と書かれていたのですが、実際は80時間前後でした。そうすると社長は |