働き始めて1月が過ぎた頃から、Mさんと仲良くなりはじめた。いっしょに配送の仕事に行った時は、滅私奉公的な働き方を僕に説いていたMさんだったが、慣れるにしたがって彼の本音が出てきた。 Jさんが外回りに仕事に行ってしまった後など、よくMさんと話すようになった。僕は割合と自分の意見をはっきりと言っていたので、信頼されたのかもしれなかった。Mさんも本音では私用の有給休暇をいっさい許可しない社長にかなり批判的だったのだ。これは工場長も同じで、僕も会社に批判的なことを言っていたから、安心したのだろう、3人でよくいろいろと言っていた。ただ、Sさんは相変わらず、一切本音を言わず、建前ばかりだったのでJさんがいないときは仲間はずれのような状態になっていた。 しかし、Sさんは社長にはとても好かれていた。それもそのはずで、本音かどうかはわからないが、社長の方針にいち早く共鳴していた。社長のSさんへの期待が、表面化した出来事があった。
Jさんが外回りに行ってしまった後、SさんがJさんの仕事を引き継ぎCADで入力をしていた。しかし、Sさんは配送中心だったため、CADの使い方をよく理解していないところがあった。それを見かねたMさんが、SさんにCADを教え始めた。隣にいた僕は、その教え方に違和感を感じなかった。初心者に、できるだけ簡単な喩えを使ってわかりやすく教えようとしている感じだった。しかし、それを社長が見るなり、Mさんのことを怒鳴ったのだ。 朝礼で社長がある配送業者の話しをしたことがあった。個人で営業している業者で、土曜日の深夜に、どうしても届けないといけない品物があり、社長がどういう伝で知ったのかはわからないが、依頼したらしい。その時、その人といろいろ話しをして感銘を受けたとのことだった。 社長がいうには、その業者は24時間365日、つまり年中無休で依頼があれば、いつでも受けるということだった。生活時間の大半を車の中で過ごし、常に仕事用の携帯電話を身に付け、咄嗟の依頼にも対応できるようにしているという。彼を社長は「素晴らしい」と絶賛していた。
1年365日24時間営業などというのはレトリックであることは、誰が聞いてもわかる話しで、‘依頼があれば、できるだけ速やかに対応する’ということだろう。この社長の話しをSさんは、目を輝かせて聞いていたが、Mさんは朝礼が終わり、社長が事務所に戻ると |