最初の体調不良


 ある日、Jさんの使っていたMacがおかしくなった。MさんとSさんは「どうした、どうした」という感じで、3人でわいわいやっていた。僕は、自分の仕事を続け、その輪の中に入らなかった。すると、聞こえよがしに
「知らんふりかよ!」と吐き捨てるように言ったJさんの声が聞えてきた。僕が自分の仕事を放っぽり出して、その輪に加わらなかったことが気に食わないようだった。個人主義の僕と全体主義的なJさんとは水と油だった。そして、徐々に、あまり話をしない冷たい関係になっていった。

 それからしばらくして、Jさんからそれまでとは違う仕事を頼まれた。僕は、そのやり方が全くわからなかったので、Jさんに訊くと
「自分でやれるところまで考えてやってください。普段から勝手にやっているんですから」といやみを言われた。しかし、僕には全くわからず、Jさんがいなくなった隙に、Mさんに訊いた。しかし、Mさんもその仕事はやったことがなく、わからないという。

 仕方なく、僕はMacに入っているデータを検索して、同じような仕事を探し、それを参考にして何とか完成させた。それをJさんにチェックしてもらおうと思い、声をかけると
「それでいいと思っているんですか?」と冷たく言われた。
「たぶん、大丈夫だと思うんですが、初めてですからチェックしてもらいたいんです」
「大丈夫だと思うなら、先方にFAXしてもいいんじゃないですか?」
「でも、ミスがあったらまずいですし…」と僕が、あくまでもチェックをお願いすると
「それじゃー、昼休みの間に見ておきます」とJさんが言った。そして、僕は昼休みに入り、昼食をとり、1時にCAD室に下りていくと
「驚きましたよ。あれで本当にいいと思っているの!」とJさんは蔑んだような口調で言った。
「何処か間違いがありましたか?」と僕が訊くと
「わからないの!もう1回やり直し」と冷たく言われた。しかし、それは今の僕には無理だった。どうしてもわからない。1時間が過ぎた頃、そのことを言っても、Jさんはやり方を教えてくれなかった。
「僕には無理のようです」と僕が言うと
「そんなに難しくないだろう」とJさんは突っぱね、どうするつもりなのか、何がしたいのか、僕にはさっぱりわからなくなった。新人に、難しい仕事を与えて、やり方も何も教えない…これはひょっとしたら‘いじめ’というやつではないだろうか?とその時初めて思った。
「僕にはこの仕事は向いていないかもしれませんね」と僕が、沈んだ声でいうと
「そうかもしれないね」とだけJさんは言い、その仕事を引き取り自分で進めた。この時、初めて‘辞職’を具体的なものとして意識した。

 このことから数日後、僕は体に変調を来たした。午前中までは何でもなかったのだが、昼食をとり、午後になってから急に体がだるくなり、高熱が出た。その日は何とか、勤めたが、翌日、入社以来初めて会社を休んだ。僕は今までもよく風邪をひく方ではあったが、このような具合の悪くなり方は初めてだった。明かな会社に対する拒否反応だった。

 さいわい、一日休んだだけですみ、翌日からはまた仕事に行けた。Jさんは多少、思うところがあったのか、僕に対する当りは柔らかくなった。今まで勤めていた人同様、すぐに辞められては困ると考えたのかもしれない。


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