プロローグ


 2002年9月末、それまで11年間勤めた会社を辞めた。そして、10月の上旬から約1週間東北地方を車で旅した。その頃、僕はもう正社員になって、物理的にも精神的にも窮屈な思いはしたくないと考えていて、パート・アルバイトの仕事で、何とか生活できるくらいの給料を貰い、空いた時間で好きなことをして暮らそうと思っていた。

 しかし、いいところはなかなか見つからず、たまに見つかっても書類選考で落ちてしまい、失意の日々が続いていた。当初考えていた、「のんびりと生きたい」という気持ちより、とにかく仕事に就かなければという焦りが強くなった。パート・アルバイトで目的の給料を得られるところはほとんどなく、知らず知らずのうちに僕は正社員の仕事だけをハローワークの検索機で探すようになっていた。

 2002年年末にいくつか、自分のできそうな仕事が見つかり、2003年の年頭から僕は積極的に動いた。しかし、それら全てに不採用となり、暗澹たる気持ちになった。焦りはさらに強くなり、とにかく働ければ何処でも…と思うようになった。そんな精神状態だった1月末、(有)N製作所の求人票をハローワークで見つけたのである。


登場人物
社長:50代後半、典型的な町工場の経営者。他社に勝つためには、とにかく先方のどんなに無茶な納期でも受け入れ、それを絶対に守るという哲学を持つ。人当たりは一見優しいが、仕事一徹の怖い一面がある。
奥さん:社長の奥さん、経理を一手に引き受けている。会社の暗部を知っていて、改善しようという意欲はある。仕事には口を出さない人かと思っていたが、仕上った製品の発送をしているため、時間に遅れ、特急料金とかが発生してしまうと不機嫌になる。
Jさん:社長の甥で専務。30代後半。CAD技術者であると同時に仕事の打ち合わせ、納品など営業の仕事もしている。昼も休まず、ずっと仕事をしていた。かなり高圧的な態度をとる人で、そのことが原因となり、過去トラブルが絶えなかったようで人が定着しなかったらしい。N製作所は休日出勤がなく、どんなに遅くなっても金曜日に全ての仕事を終える方針はこの人の休日出勤嫌いからそうなったらしい。
工場長:50代半ば、社長の方針には批判的だが、表だって逆らうということない。組み立ての責任者だが、PCにも詳しい。基本的に穏やかな人物。
Mさん:30代後半、唯一の平社員。社長に批判的で工場長と仲がよい。ただ、会社に対して批判的な発言をしたと思えば、賛美したりと掴みどころのない性格。社長、奥さんに嫌われていて、何でもないようなことでよく怒られていた。遅刻の常習者。組み立て、CAD両方の仕事をしていた。
Sさん:40代前半、僕と同期で入社した新入社員。大人しく、何でも言われた通りにするイエスマン。自分の意見は一切口にしなかった。CADの覚えがイマイチだったため、ほとんど配送専門になった。前職はデパートでアルバイトとして働いていたが、そこで知り合った女性と結婚したため、正社員の職を求めて転職。埼玉県に住んでいるため、通勤に1時間半くらいかかり、唯一の長距離通勤者。


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