下北・津軽旅行記 その1

―2002年10月10日〜15日 青森旅行―


下北半島

 昨日は寝坊してしまったけれど、今日はすっきりと目覚めることができた。窓から朝の光りが差し込んでいて部屋の中に白い光線が輝いている。天気はすこぶるいいらしい。窓を開けて外を見るとまさに旅行日和だった。顔を洗い、昨日用意した荷物を持ち、七時ちょっと前に家をでた。そとはちょっと肌寒かった。

 車の後部座席に荷物を入れ、助手席には東北の地図を置き、朝飯は東北道の何処かのサービスエリアで食べればいいと思った。とにかく早く青森に向けて出発したかったのだ。昨年、車のタイヤを代えてから後輪の右側が2回も空気が抜けてぺしゃんこになっていたことがあり不安だ。千葉の富津に行く前も空気は抜けていたのだが、空気を入れるとすぐに抜けるということはなく、どうなっているのかよくわからない。今もちょっと見てみたが大丈夫のようだった。たぶん、空気の入れ方でも悪かったのだろうと自分で強引に結論を出し無理やり納得することにした。

 7時ちょっと過ぎに出発した。ちょうど東京の通勤時間と重なってしまったようで環状7号線はかなり混雑していて車はほとんど前に進まない。東京の混雑をどうしても避けたかったら6時前くらいに家をでないとだめだ。まあ、先は長いのでここで焦っても仕方ない。何とか首都高速の大井南インターまで行き、そこから高速に乗った。これで今日の宿泊予定地の八戸までは一本道だ。

 首都高はまだそれほど混雑はしていなくて、まあまあ順調に走れた。ただ所々で分岐があるのでそれだけを注意しないといけない。特に堀切Jctから小菅Jctの間は短い距離で2つか3つ右の車線から左の車線に車線変更しないといけない。ここで間違えると茨城県に行ってしまうことになる。このあたりに首都高の設計のまずいところがあるように思える。小菅Jctを過ぎるともう複雑な分岐もなくなり東北自動車道まで道なりに行けるので一安心だが、最後に東京外環自動車道があるのでそれを注意をしないといけない。間違って外環の方に入ってしまうとそれこそ行きたくもない埼玉県南部の方に行くことになってしまう。

 幸い、僕はこういったややこしい分岐にも惑わされないで目的の東北道に乗ることができた。東北道にもいくつかこういった分岐はあるのだけれど首都高のそれに比べれば幾分か可愛げである。

 そういえば今日はまだ朝ご飯を食べていなかった。お腹が減ったまま車を運転するのはあまりよくない気がする。精神的にいらいらして運転が乱暴になったりする。時計を見るともう9時近くになっているし、車にガソリンも入れておきたい。東北道で好きなSAは西那須野だ。

 これはもうかなり昔の話だけれど、やはり会社を辞めて東北・北海道旅行に行った時、最後に野宿した場所だ。広いし、その割には止まっている車の数が少ないのがいい。西那須野SAに着きまずトイレによってから食事をとりに行った。ここはレストランもあるけど朝から贅沢するわけにもいかず、軽食コーナーに行った。

 ここはうどんとか、ラーメンとか、牛丼とかがある。いろいろとメニューを見てみるとシメジご飯とかき揚うどんのセットがあった。僕はシメジご飯には目がないのですぐにそれを注文することに決定した。贅沢はするつもりはなかったのだけれど750円も払うことになってしまった。しかし、朝はいっぱい食べた方が健康にはいいというしまあいいだろう。

 朝食をとった後、今度は車にガソリンを補給するため、併設されているガソリンスタンドに寄った。ガソリンスタンドは若い店員ばっかりで何とかこちらにお金を使わせようとする。「水抜き剤がもうだいぶ経っているようですが、入れておきますか?」「バッテリーの充電の状態が悪いようですが?」「ウォッシャー液が少なくなっていますけど?」といろいろと言われると確かに思い当たるふしがあるため水抜き剤は断ったけれど、他の2つは断ることができず頼んでしまった。後でバッテリーは仕方ないけどウォッシャー液は断ればよかったと思ったがもう遅いのだった。

 東北道は宇都宮を過ぎると2車線になってしまうので所々工事が行なわれている箇所は通行できる車線が1車線だけになってしまうのだが、それでも渋滞にはならず順調に走れた。高速道路を淡々と運転していると必ずといっていいほど睡魔が襲ってくるものだが何故かこの日は頭が冴えていて、それは僕に近寄ることができないようだ。

 天気がいいため車の中はかなりの暑さになってきたのでエアコンを入れた。カーラジオも始めはFM東京だったがそれがやがてNack5になりそれもだんだんと怪しくなってFM栃木とかそういった地方のFM局にとって変わるようになった。これからさらに北上する過程で目まぐるしく入れ替わるだろう。

 東北への旅はすぐにのんびりといった雰囲気になるからいい。これが関西方面だとこうはいかない。東京を出ても横浜がありその次には名古屋があり大阪がある。都市が数珠繋ぎになっていてなかなかのんびりした気分にさせてはくれないのだ。東北だと仙台付近でもそれほど車が増えるというわけでもなく、ふと気づくと前方にも、バックミラーを通した後方にも一台の車も見えないことすらある。

 僕は通常、高速道路を走るときは一番左の車線をゆっくり走り、あまり追い越しとかはしないのだけど、何故かこの日はちょっとでも前に遅い車が走っていると果敢にも右に車線変更して追い越しをかけた。それが早く目的地に着きたいためだったのか、他に何か理由があるのかは自分でもわからなかった。

 朝食を結構いっぱいとったため、昼食の時刻を遅らしていたけど、さすがに一時半を越えるとめまいがしてきそうになったため、紫波のSAでとることにした。ひょっとしたらこれから貧しい食事になる可能性もあるのでここではちょっとまともなものにしようと思い、豚の生姜焼き定食を注文した。

 旅に出ると食事が思うようにならなくなり、特に野菜不足になることが多いので、豚肉よりは付き合わせのキャベツやたくあんの方が目当てだったりするのだから僕に食べられる豚も可愛そうだ。ただ、僕も豚肉の効用はよく心得ているので勘弁してもらうことにしよう。

 午前中はよく晴れていたけど午後に入ってからは雲が出てきてたまに雨が落ちて来たりしていた。盛岡を過ぎ、安代Jctで八戸自動車道に入ると雨が強くなってワイパーなしでは視界がきかなくなった。安代Jctで八戸自動車道は東北自動車道から分岐しているのだけど、その分岐している方が大きな顔をしていて東北自動車道をそのまま走るには一番左の車線に行って端の道を登って行かないといけないのだ。これは八戸道を利用する車の方が多いということなのだろう。その八戸道も三沢方面の分岐があったりして古い地図しか持っていない僕を惑わすのだ。

 八戸に着いたのは四時をちょっと過ぎた頃だった。車のガソリンが心細くなっていたので八戸インターの近くのガソリンスタンドに入った。レギュラーで満タンと頼んだが、カードを作ってくれるということだ。だけど、このガソリンスタンドでガソリンを入れるなんていうことはもうないかもしれない。このカードが同じ系列のスタンドだったら通用するのだったら無駄にはならないのだけれど…。そう考えて作ってもらうことにした。ついでに八戸駅の道順を訊いたら「え?」という感じだった。僕は何かおかしいことを訊いたのかな?と思ったら駅名は八戸ではなくて本八戸というらしい。八戸という駅もあるらしいのだけどそれはそれはちょっと外れた場所にあるらしく八戸インターからもちょっと遠いらしい。八戸市の中心になる駅は本八戸なのだ。

 「市庁舎の方に向かって走って行けばわかりますよ」と案内を受けた。僕はどうも表示に出ていた八戸駅の方に向かって走り出していたようで、車をUターンするはめになってしまった。それにしても八戸市内は走りづらかった。道がわかりづらく狭いうえに何故か国道がいきなり一方通行になってしまったりした。それでも何とか駅までいったけど車を止める場所がみつかない。仕方なく駅を一周して駅の反対側に行くと「○○歯医者」とか「着物の着付教室」の駐車場などがあった。そこには‘来客者以外の駐車は固くお断りします’と看板に書かれていたけど僕の車がその来客者かどうかはわからないだろうし、十分くらいならと思ってそこに車を入れた。

 駅に行き、市内の案内図を見つけ、さらにその中から宿泊というところから市内の旅館やホテルを見つけた。駅のすぐ近くにビジネスホテルがあったのでそこだと1分で行けるというか、もう目の前に見えているので、そこにしようと思い、電話番号を手帳に書いて駅の青電話から電話をかけたが今日は満室との理由で断られてしまった。まさか断られる思っていなかったのでちょっと慌てたが八戸は意外に宿泊施設が多かった。ここから北海道行きのフェリーもでているし、太平洋側の重要な拠点なのだろう。駅の案内図でできるだけ駅に近いところから電話をかけようと思い3〜4つリストアップして青電話に走った。

 幸運なことに最初に電話を掛けたホテルが部屋に浴室のないタイプだったら用意できるということだったので値段を訊いたら4500円とまあまあ手頃な値段だったのでそこに決めることにした。早速、駅の市内案内図まで行ってホテルの場所を入念に確認した。国道340号沿いなのですぐにわかるだろうと思っていたが、これがなかなか手強かった。国道340号は何故か一方通行になっていてどうもホテルの前を通り過ぎてしまったらしいのだ。仕方なくまた振り出しに戻り適当なところに車を止めて徒歩で確認したら、やや小振りのホテルを発見することができた。車でホテルに向かい、駐車場に車を入れてこれでやっと落ち着くことができた。フロントでお金を払い、部屋に荷物を置いて、ちょっと休憩してから外に夕食をとりに出かけた。

 まだ時刻は六時くらいだったけど、秋は日の暮れるのが早いのでもう外は真っ暗だった。国道沿いにホテルの前の道を街の中心と思われる方向にぷらぷらと歩いた。車で走った感じではこの通りが一番賑やかな感じがしたからだ。デパートのようなビルも建ち並んでいてまあまあ華やかな感じはする。まだ時刻は早いので、ある程度歩いてから良さそうな店に入ろうと思った。

 量販店はたくさんあるのだが、飲食店はあまりなかった。デパートでも入ってその一番上の階にでもいけば何かありそうなのだが、それではちょっとつまらないと思い、僕はさらに歩き続けた。そのうちコンビニが見つかったのでここでとりあえず明日の朝食を仕入れておこうと思い、おにぎり1個とアロエヨーグルト、それにメロンパンを買った。缶コーヒーはホテルの中にあったのでそこで買えばいいかと思い買わなかった。そうしているうちにお腹がだんだんと減ってきたのでここにくるまでの途中にあったラーメン屋さんに入ろうと思い、来た道をぼちぼちと戻った。

 そのラーメン屋さんに入ってみると客はカウンターにひとりいるだけで店内はがらーんとしていた。僕はあまりにも席が空いているのでちょっと何処に座ろうか迷ったが水がセルフサービスなのに気づき、すぐに水が取れるように給水器のある入り口近くの席に座った。メニューを見るとやはりラーメン中心のようだが、カレーライスなどもあり、特にラーメンにこだわった店でもないようだった。店主は50代くらいの女性でひとりだけで切り盛りしているようだった。うちの母も昔、スナックをひとりでやっていたことがあるのでこの店の店主になにかしらの親近感を覚え、さらに家にいる母のことが頭を過った。

 麺類だけだと夜中にお腹が減ってしまいそうだったのでチャーハンセットというのを注文した。これはしょう油ラーメンと半チャーハンがセットになっているのである。それが出てくる頃にはひとりいた先客が食事を終わり、店を出ていってしまったので店内の客は僕だけになった。店の女主人は僕にチャーハンセットを持ってくると「どうぞ」といいカウンターの奥に隠れるように座ってしまい僕の席からは見えなくなってしまった。

 東京辺りというか今は全国的にラーメンブームになっていろいろと凝ったスープやら麺がよくTVや雑誌で取り上げられているが、ここのラーメンはそんなブームには全く関係ないうようないたってシンプルなしょう油味のラーメンで懐かしい味がした。チャーハンもそれは全く同じで特に凝ったところもなく、昔ながらのものだった。僕がほとんど食べ終わった頃、ひとり男性の客が入ってきてカウンターに座るなり、「しょう油」と慣れた口調で注文した。恐らくこの店の常連の人なのだろう。僕は何故かちょっとほっとして勘定を払い店を後にした。

 ホテルに戻った僕はすぐに最上階にある風呂に入りに行った。最上階といってもこの小さなビジネスホテルだと四階なのだ。浴室に入ると誰も先客は入っていないで僕ひとりの貸し切り状態だった。

 こういったビジネスホテルは普通、室内にユニットバスがついているのだが、たまに「大浴場」というのがある場合がある。だけれどもその大浴場というのはほとんどが名前だけの「大浴場」の場合がほとんどでせいぜい2〜3人も入ればいっぱいになってしまうのだ。しかし、このホテルの「大浴場」はほんとの大浴場で10人は有に入れそうでつめこめば20人近く入れるかもしれない。僕はうれしくなり体を洗ってから湯船の中に入り体をめいっぱい伸ばしてみた。長い距離運転してきて縮こまった体が一気にほぐれる気がした。それだけでは飽き足らず反対側まで軽く泳ぐまねをしてみたりした。風呂は人間を子供っぽくするのかもしれなかった。

 風呂から上がり部屋に戻ってからコンビニで買ったおにぎりとアロエヨーグルトを食べた。これで夜にお腹が減って眠れないということもないであろう。明日は本州最北端の地、大間崎か…と思うと胸が高まった。つづく…


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