テレビの新型コロナ関係のニュースでスウェーデンは感染症対策をとらず、集団免疫の獲得を目指しているという話をよく聞いていた。街中はマスクをつけていない人で溢れ、公園などで楽しく遊んでいる親子やレストランで楽しそうに談笑しながら食事をしている人たちの映像が流されたりする。 しかし、死者は5000人を超え、北欧諸国の中では突出している。公衆衛生庁がストックホルムで行った抗体検査では14%という結果がでて、スウェーデンの対策は失敗したという論調が目立つようになった。さらにこれはマスコミだけでなく、Youtuberの中にも集団免疫作戦は完全に破綻したという主張しているものもある。 しかし、それらはほとんど日本国内にいる人の見解なので、現地では何が起きているのか知りたくなった。それで、スウェーデン在住の日本人のYoutubeを観てみた。するとそもそもスウェーデンは集団免疫の獲得を目指していないということがわかった。スウェーデンの基本的な感染対策は1.感染拡大の速度を遅くして、急激に感染者の増えないようにする、2.感染拡大よりも早く医療体制を整えること、3.コロナウイルス問題は長期化するという前提で、長期的に持続可能な対策をとること、だそうだ。 欧米諸国の多くはロックダウンという都市封鎖政策を取っているのに対して、スウェーデンは何故ロックダウンをしなかったのだろうか?その答えはシンプルでロックダウンが有効という証拠がないからだった。さらにスウェーデンのコロナ対策の陣頭指揮をとっているアンデシュ・テグネル氏は、コロナ問題は長期化するとみており、ロックダウンのような強固な政策は長期の持続に耐えられないという判断があった。 ロックダウンをすれば一時的には感染者をある程度抑えることはできるが、解除すれば再び増加に転じてしまい、再びロックダウンということになるのだろうが、そんなことを繰り返せば経済への影響は深刻なものになる。ロックダウンは強い副作用を伴う。家に閉じ込められた人たちの健康と経済的損失だ。そのため医療崩壊を防ぐという一点に焦点を絞った政策がスウェーデンでは取られることになった。 医療崩壊とは何かという定義も明快で、集中治療室の病床の数を重症者の数が上回らないことである。ロックダウン政策を取らなかったことで、スウェーデン政府は何もしていない、ノーガードでコロナに打たれているという間違った認識も広がっているが、実際は50人以上の集会禁止、旅行の禁止、老人福祉施設への訪問禁止、ソーシャルディスタンスの確保、飲食店の混雑の緩和などの対策をしている。 しかし、北欧諸国では飛び抜けた死者の多さにより、この緩い対策は失敗だったという報道が多い。このことはアンデシュ・テグネル氏も認めて、反省を述べている。しかし、ここで重要なのは政府が形だけの謝罪や死者の多く出たことに対する言い訳をせず、その原因を真摯に追求し、国民に説明したことである。 スウェーデンの死者の大半は80代以上の老人の方々で、これだけの死者を出してしまった原因は、40ある老人福祉施設のうち少なくとも20でクラスターの発生してしまったことによる。これはそこで働いていたパート従業員の低賃金が原因だった。彼らの多くは時給制で仕事を休むと給料の少なくなるため、風邪の症状があっても仕事に行っていたという。そのため、コロナウイルスが施設内に持ち込まれ、多くの老人が感染して、命を落とすことになった。 強固な対策を取らなかったという点でスウェーデンと日本は似ているが、大きな違いはマスク着用である。もともと欧米各国ではマスクをする習慣はない。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって多くの国ではマスク着用が推奨されたり、公共の場では義務付けられたりした。ところがスウェーデンでは未だにマスクを着用している人は皆無だという。その理由は国が推奨していないからだ。 何故、マスク着用を公衆衛生庁は推奨していないだろうか?その理由はロックダウンをしなかったのと同じで、マスク着用が有効という証明がないからだ。マスク着用は着用者自身の感染予防には効果はないが、他者を感染させない効果があるという考えが一般的だ。これには一定の理解を示しているが、取扱が難しいという。 まず、健常者はマスクをしてもしなくても関係はない。問題は無症状の感染者で彼らがマスクをしたまま話したりすると当然マスクにはコロナウイルスが付着する。彼らの話すたびに、或いは咳をするたびに常に新しいウイルスがマスクに供給されることになる。彼らがマスクに指一本触れないのなら問題ないが、そんなことは不可能だ。通常だったら何回も手の触れることになる。食事をするとき、飲み物を飲むとき、息苦しくなったり、何となく不快感を覚えてなんていうこともある。そうすると手にはウイルスが付着し、それで何処かを触れば周囲にウイルスは拡散されることになる。マスクには常にウイルスが付着しているから、彼の触れた場所はほとんどが汚染されると考えられる。 では、マスクをしなかった場合はどうなるのか?彼らの話すたびにウイルスは飛沫に混じって口から飛び出す。ここで大切なのがソーシャルディスタンスと換気で、この二つが守られていればまず通常の会話では感染することはない。ただし、咳やくしゃみの場合、ウイルスは思いの外遠くまで飛び、空気中を浮遊する。2mの距離を取っていたとしても、感染するリスクはある。 したがって、咳やくしゃみの出そうになった場合はすばやく肘の内側で口を覆う行為をしなくてはならない。咳やくしゃみが出そうになったら肘の内側で口を覆うと、排出されたウイルスは肘の内側に付着する。しかし、この部分は何かに触れるということがほとんどなく、ウイルスはそこにとどまり続ける。スウェーデンの公衆衛生庁はこのように考えているようである。 これからもわかるようにスウェーデンというのは徹底的に理論主義の国で、確かな証拠がなければそれを採用することはない。この辺りの信頼感があるから、失政はあったが、それでもまだ半数近くの国民の支持を政府は得ているのだろうと思う。 以上はスウェーデン在住の複数の日本人のYoutubeとブログを参照して、まとめたものである。では、日本のマスコミではどのように報道されたかというと、「スウェーデン新型コロナで独自路線、集団免疫の獲得目指す」「集団免疫目指すスウェーデン、街中に人溢れ、マスク姿の人なし」「集団免疫作戦のスウェーデンに異変、死者多数」「公衆衛生庁アンデシュ・テグネル氏、改善の余地を認める」「スウェーデンのコロナ対策 危険な賭け失敗」「抗体保有率6.1%、集団免疫程遠く」といった感じで、これだけみていると、集団免疫を目指し緩い政策を取ったが、多数の死者を出し失敗に終わったとなる。 しかし、スウェーデン在住の生の声を聞いた後では、マスコミの報道の内容の薄っぺらさと不正確さだけが際立つ。マスコミの最大の問題点は独自の視点のないことである。声の大きな者から得た情報をただ流すだけで、検証をほとんどすることはない。 ネットによって僕たちは現場の一番近くにいる人たちからの声を直接聞けるようになった。その小さな声も一面的ではあるが、生きている。それをいくつか聞けば、おぼろげながら見えてくるものはある。そのいくつもの小さな声は、大きな声をたやすく破壊してしまうだけの力を持っている。 ここではスウェーデンのコロナ対策を例にしたが、どんな事象についても同じことがいえる。テレビよりもネットの方がはるかに多様で、事実をよく知っている人からの声を直接聞くことができる。そこには当然危うさもある。しかし、それも複数の声を聞くことによって、ある程度回避することはできる。 今までもマスコミは事実とは全く違うことを報道してきた。より刺激的でわかりやすいことのほうが一般受けするからだ。利益を得るためなら平然と真実を隠蔽し、刺激的な嘘を垂れ流す。新聞が売れるからと戦争を煽ったのもマスコミだった。視聴率が取れるからとコロナの恐怖を煽ったのもマスコミである。しかし、ネットで多くの人々の声を直接聞ける現在、そういった商法は徐々に通用しなくなるだろう。テレビの衰退はもう始まっている。(2020.8.23) |