自粛要請に従わないパチンコ店考

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、緊急事態宣言が発令され、各都道府県でいろいろな業種に自粛要請が出された。しかし、それを無視して営業を続けるパチンコ店が各地にあり、物議を醸しだしている。大阪府は営業を続けるパチンコ店の実名を公表したが、それによって返って客が集まるなんていう皮肉な結果になった。

 テレビの報道番組や身の周りの人も自粛要請に従わないパチンコ店に批判的である。営業して感染を拡大させたらどうするのか、パチンコ店に行く客も客だ、ガマンすることができないのか、といった感じである。うちの会社の社員のひとりは、バカな人って本当にいるんだなと思ったと呆れ顔だった。

 自粛要請を無視して営業するパチンコ店の言い分は、「営業しなければ、従業員の雇用を守れず、会社が倒産してしまう。パチンコ台のリース代や従業員の給与、公共料金の支払いなど経費で月2500万円くらいかかる。自粛協力金の50万円もらっても焼け石に水」というものである。

 パチンコ店に行く客は、開いているから行ってしまう、黙って機械に向かっているのだから、感染の恐れはない、また、感染してもいいと思っているとコメントした客もいた。普段なら平日の朝からパチンコに行く人は少ないと思うが、自粛の影響で仕事が休みになっていたりするため、余計に集まってしまうのだろう。

 物事はいつも多数派が正しいとは限らない。この件も冷静に考えれば、パチンコ店の言い分の方が理解できる。緊急事態宣言は特措法に基づいて発令されているが、要するに自粛要請はするが、それに伴う損失の補償はしないというものなのである。そもそも自粛とは、「自ら進んで自身の言動を慎むもの」である。つまり、自粛要請は「自ら進んで、お店を閉じてください」というものだ。自ら進んでお店を閉じるわけだから、補償はなしという理論なのである。

 したがって、自粛要請に従わなくても罰則はない。海外のように強制的にロックダウンさせた場合、当然、それは休業補償とセットにしなければならない。強く主権の制限をするわけだから、その責任はそれを命じた政府が取らなくてはならない。しかし、日本の特措法はその辺りを曖昧にして、国民は比較的に政府のいうことを聞くという観測から、それぞれの自主性に期待するといった、大変、狡いものになっている。

 店を閉めれば会社が倒産してしまう、自粛しても政府からの補償は僅少である、したがって従業員の雇用を守るために営業するといった理論は十分に理解できる。もし、どうしても営業を自粛してもらいたいのなら、それに見合う補償をしなくてはならないが、それができないため店名を公表するといった、公開リンチに近いことをして圧力をかけ、どうにか営業を止めさせようとしている。

 パチンコ店の感染リスクが高いか、低いかは議論の分かれるところである。また、そのような議論は不要という意見もある。しかし、感染リスクの議論はパチンコ店に限らず、重要に思える。最近では、公園で遊ぶだけでも感染リスクがあるとして、とにかく家に閉じこもっていなくてはならないということを力説するコメンテーターもいる。

 テレビに出演して、自粛を訴えている人たちは基本的に自粛をしても経済的に困らない人たちばかりだ。政治家、役人、専門家会議のメンバー、医療関係者、コメンテーター、テレビのアナウンサーなど、自粛が続いても影響のない人たちばかりで、切実な現実を分かっているとは思えない。彼らは自粛ばかりを強調して、それをしない人、できない人を断罪する。彼らには補償は必要ないから、意識の中にないのだろう。彼らにしてみれば、パチンコ店に限らず、海岸に集まるサーファーも、公園で遊ぶ親子も、ゴルフ練習場に集まるゴルファーも悪ということになる。

 僕はパチンコ店が悪意を持って営業を続けているとは思わない。上記の理由だと思う。どうしても、休業させたいのなら、補償とセットではなくてはならず、それができないのであれば、自粛要請に応じないことは非難できない。あとは感染リスクをできるだけ下げるような配慮をしてもらい、静観するしかない。これはパチンコ店だけでなく、全ての店舗にいえることである。

 政府は5月末までの緊急事態延長を決めた。それなら、しっかりとそれに対する補償をしなくてはならない。自粛をしろ、補償はしないは通用しない。国民に安心して自粛できる環境を作る責任がある。(2020.5.4)


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