コロナに感染してもいいじゃないか

 報道ステーションのメインキャスターを務める富川アナウンサーがコロナウイルスに感染した。僕はほぼ毎日、同番組を観ているのだけど、確かに放送中、喉に痰が絡まり聞き苦しいところがあったりしたが、ちょっとした風邪なのだろうと思っていた。

 富川アナも同じだったかもしれない。後に公表された経過では、朝38度の発熱があったが1時間で平熱に戻るということを2日間繰り返し、その後は番組に出演していたが、痰が絡んだり、息切れをしたり、さらに階段を上ると息苦しさを感じるようになり、産業医に相談、病院でCT検査をしたところ肺炎の所見が確認されたため入院、PCR検査で陽性となった。

 発熱しながらも番組に出演し続けた富川アナに対しては、視聴者から批判が出ている。新型コロナウイルス関連のニュースを連日報道している立場なのに自覚が足りない、判断が甘すぎるといったものだ。

 テレビ朝日は報道ステーションで富川アナの代役の小木アナが「番組で繰り返し感染予防を訴えてきた中で、このような重大な事態になったことを非常に重く受け止めております」とコメントし、富川アナも「番組でも繰り返し感染予防を呼び掛けていた立場にもかかわらず、このような事態を招き、視聴者の皆さま、関係者の皆さまに大変なご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」と謝罪のコメントを発表した。

 しかし、果たしてこれは謝罪しなくてはならないことなのだろうか?と疑問に思う。恐らく、気をつけていてもいなくても、感染するときは感染してしまうものだ。とすると、コロナに感染しても、それは不注意ではなく、ただ運が悪かったと思うべきなのである。

 コロナに感染することは悪いことで、感染した人は犯罪者のような流れが形成されることは、絶対に避けなくてはならない。そのような世論が形成されると、かえって感染を広めてしまうことに繋がるからだ。現在、何処の組織でも「コロナに感染するな!」という圧が非常に強くなっている。感染者を出せば、いろいろと面倒臭いことになり、世間の見る目も厳しくなるからだ。

 酷い会社だとコロナに感染したらクビというところまであるらしいし、また、感染者を隠すなんていうところもあるようだ。こうなると感染を疑われるような症状が出ても、症状の酷くなるまで何処にも相談せず、勤務を続けたりするケースも出てくる。そして、コロナの感染拡大に繋がる。

 愛媛県知事が私用で横浜に知人を訪ねコロナに感染してしまった高校教師を教員にあるまじき行為として謝罪したケースでも、同じようにコロナに感染することは悪という印象を人々に与えてしまった。この教師のケースでは、認識に甘いところのあったことは否めないが、それは個人的に注意をすればいいのであって、知事が記者会見を開いて謝罪するというのはよくない。感染に対するプレッシャーを与えることに繋がってしまう。

 富川アナの場合、感染したのは仕方ない、問題はその後の行動だという意見がある。発熱したのにもかかわらず、番組出演を続けたことに認識の甘さや責任感の欠如を指摘する人もいるが、それは逆のように思う。責任感の強すぎたため、または世間的なプレッシャーのため、当初は誰にも相談できなかったのではないかという気がする。

 38度の発熱のあった後、富川アナはコロナ感染ということを考えたと思う。しかし、1時間で平熱に戻り、胸を撫でおろしたはずだ。コロナは37.5度以上の発熱が4日間続くということになっているからだ。2日間、発熱のあった後、体調は元も戻ったのだから、‘よかった!‘という気持ちに傾いてしまったのではないだろうか?コロナ感染でないことを願うあまり、本人も気づかないうちに判断にコロナ感染ではないといったバイアスがかかってしまったのかもしれない。

 大阪泉南市の市議が「感染者は殺人鬼に見える」と発言して、後に謝罪するということがあった。しかし、この発言に共感を覚える人もいるはすである。また、知らないうちに加害者にならないようにという言葉もよく聞かれる。加害者というのはある意図をもって、人に害を与える者である。自分がコロナ感染者と知って、他者に感染させようとすれば加害者だが、気づかないで他者に感染させたとしてもそれは決して加害者などではない。コロナ感染者に関しては、被害者も加害者もない。全てはただコロナに感染したというだけだ。

 富川アナに関して、番組降板なんていういかがわしい情報もネットでは散見される。しかし、決し降板などしてほしくない。同じくコロナに感染してしまった赤江珠緒さんはコメントを発表し、次のように結んだ。「回復してラジオに復帰しましたら、私どもの体験をお話できたらと思っております」(2020.4.19)


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