年収200万円のパートでも、家は買えるか?

10.最終残金決済日

 引き渡し前の物件確認のため、不動産店に向かった。売主も立ち会い、物件の確認、残留物や近隣との境界などの確認を行うのである。この日の前、直接、不動産店から紹介されたリフォーム会社に見積もりの確認をすると、不動産店の方に送ってあるという。こちらには何も連絡がなかったので、そのことをいうと、「不動産店から依頼されたので…」というようなこといい、「そちらにも送りましょうか?」などというので呆れてしまったが、「日曜日に不動産店に行く用事があるので、大丈夫です」といっておいた。見積もりの内容次第では、この会社に、リフォームを依頼する可能性もあるので、人間関係を壊したくなかったのである。

 引き渡し物件の確認日に、その見積もりを不動産店から、もらったが、やはり予算を大きく超えていて、何故か350万円〜420万円と幅のあるものになっていた。物件に向かう車の中で、不動産店の担当者とリフォーム業者について話すと、自分で紹介しておきながら、「まあ、見積もりの内容次第でしょうけど、もうひとつの方にした方が、いいかもしれませんね」というので、「でも、おたくの紹介ですし、信頼性という点では確かだと思うのですが?」と訊くと、「ええ、腕は確かです。変な所を紹介すれば、うちの信頼性に関わりますから」といったが、何故か、歯切れは悪かった。

 購入した物件に着くと、すでに売主側は到着していたが、肝心の売主は体調が悪いということで欠席だった。売買契約のときにも来ていた物件を管理している不動産会社の小太りの男性だけが来ていた。彼の話によると、売主は駅に100万円単位のお金を忘れて来ても、ケロリとしているような気丈な女性で、家などの不動産が大好きだという。今日も、来るつもりだったが、風邪を引いてしまったので、大事を取ったということだった。

 物件の確認は、残留物で廃棄するものと残して置くものの仕分けと敷地の境界の確認で、一時間足らずで終わった。この後は、特に不動産店に行く用事はないため、担当者とは現地で分かれ、家の周りを散策したりして、駅まで歩いて帰った。

 残金決済日までの一週間、残金を不動産店近くにある銀行に移さなくてはならない。僕の今まで使っていた金融機関は地元の信用金庫だったが、不動産店近くの都市銀行に新たに口座を開設し、そこに物件と不動産店の仲介料の残金、そして、不動産登記を行う司法書士への登記料など合計約220万円を移した。口座の開設は、簡単にできるものかと思っていたら、意外と手間がかかった。

 そして、住民票の移動である。本来なら、住んでいない所に住民票を移動することはできないが、登記の手間を簡略化するため、残金決済日までに移動するのは、慣例となっているらしい。こうして、準備はすべて終わり、あとは当日を待つだけとなった。

 そして、当日、会社に午前中の半休を申し出て、午前10時、不動産店にいった。不動産店に着くと、すでに売主と司法書士は到着していて、書類にサインをしたり、ハンコを押したりしていた。初めて売主と顔を合わせることになったが、気風のいいおばあさんという感じで、リフォームのことをいうと、「早く知っていれば、いい大工を紹介出来たのに」といい、900万円で家を取得できたことについて、「いい買物したと思いますよ」と笑った。

 多くの書類にサインしたり、ハンコを押し、全て終わった後、不動産店の担当者と司法書士といっしょに銀行へ向かった。そして、売主の口座へ、住宅ローン会社から実行された640万円を含めた残金800万円を入金し、不動産店と司法書士に諸経費を払い、すべての支払いを終えた。司法書士は、残金を受け取ると、そのまま仕事へ向かった。

 不動産店の担当者と僕たちは店へ戻り、待っていた売主に入金の伝票を渡し、家の鍵と領収書をもらって、手続きはすべて完了した。年収200万円でも、家を買うことは、できたのである。(2016.8.13)


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