年収200万円のパートでも、家は買えるか?

7.ついに契約

 仕事で気づかなかったのだが、火曜日、携帯電話に不動産店の担当者から着信があった。売主との価格交渉の結果だろうと思い、昼休みこちらから電話を入れると、「価格は900万円で決定しました。がんばりましたよ!」と弾むような声が返ってきた。僕もうれしさのあまり「ありがとうございます!」と大声で叫んでしまった。家を探し始めてから、一番うれしかった瞬間である。「私も、早く伝えたかったものですから、仕事中ということも考えずに、電話してしまいました」とまだ息を弾ませながら、担当者はいった。僕は、ただ、ただ、「ありがとうございます」と繰り返すばかりだった。「契約のときに、用意していただく現金など、契約時の案内をメールしておきましたので、見ておいてください」と担当者いい、電話は切れた。

 家に帰り、担当者からのメールをみると、必要な現金は手付金100万円、仲介手数料の半分19万円の計119万円、その他5000円の収入印紙、印鑑と本人確認の書類を持参してくださいとなっていた。翌日、会社を早退し、定期預金をしている銀行に行き、定期預金を解約して現金120万円を引き出した。昨今は、オレオレ詐欺が多く発生しているためか、定期預金の解約では、何気なく「何に必要ですか?」と女性行員に訊かれた。「住宅を購入することになったので」と返事をすると、「何処にですか?」とさらに訊かれ、「○○区です」と応えると、にっこりと笑って「おめでとうございます」と言われた。

 日曜日、必要なものを持って不動産店に向かった。120万円近くの現金を持っていると、さすがに緊張した。不動産店には、担当者の他、売主と物件を管理している不動産店の人が待っていた。まずは長々と契約や物件に関する確認事項などが説明された。重要事項をひとつひとつ読み込んでいくため、かなりの時間を要した。

 売主の方は、70歳を超えた女性だったが、体調が悪く、この日は代理人として娘さんが出席した。この物件は、自分の住むためでなく、自身の経営する会社の社宅として、手に入れたというが、最近は空き家になっていたらしい。隣家との境界もはっきりしていて、特に問題はなさそうだったが、大雪の降った日に小屋裏収納に漏水があったという。詳しく訊くと、寒さによる結露が原因で、雨漏りではないということだった。実際に物件を見たとき、小屋裏も確認したが、雨漏りの痕は無く、大丈夫だと判断した。ただ、結露というよりは、大雪によって、雨どいが詰り、オバーフローした水が何処からか流れ込んだというのが正しいようだった。

 重要事項の説明も終わり、多くの書類に記入し、売主に手付金100万円、不動産店の担当者に仲介料の約半分の19万円を渡し、契約は終了した。あとは、ローン会社の本審査を待つだけである。そして、面談のため、ローン会社に出向くことになった。ローン会社は、土日休みのため、一週間後の月曜日、午後3時からということになった。持参する必要な書類は、住民票、三年分の源泉徴収票、三年分の市県民課税証明書、印鑑証明といわれた。この面談で、全てが決まると思うと、胃が痛くなった。

 数日後、さらに必要なものとして、現在住んでいるアパートの賃料を払っている証明、そして自己資金のエビデンスを持参してほしいとメールが不動産店の担当者から入った。自己資金のエビデンスとは、要するに僕がどのくらいお金を持っているかの証明で、自己資金の入っている通帳(諸経費も合わせ360万円くらいの残高のある通帳)ということだった。この期に及んで、追加されるとは…、いい兆候でないことだけは確かであった。(2016.7.13)


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