5.物件探し パート2 スーモやホームズなどで、横浜市の中古戸建て物件を検索すると、だいたい2000件前後ある。しかし、そのうち、1500万円以内の物件となると50件くらいしかなく、さらに1000万円以下だと10件前後である。すなわち、僕たちの選択肢は少ないということなのだ。そのわずかな選択肢も、崖地だったり、交通の便が悪かったりする。古い物件でも、平坦なところに建てられているものの価格は高い。それは、土地の価格が高いためで、つまり、この予算では崖地で土地の価格の安いところか、或いは何かの理由で再建築不可になっているような物件しか、手に入れることはできないということなのである。そんな思いが強くなった。 そして、ネットで検索する限り、可能性のありそうな物件は、もう、ほとんどなかった。これまで、内見した物件数は8件、その中で可能性のあるのは、2番目に見たテラスハウスだけだった。そのテラスハウスも、阿藤快ではないが「なんだかなあ」という感じだった。ここで、大きな選択を迫られることになった。つまり、2番目に内見したテラスハウスに決めるか、いい物件の現われるまで、待つかという選択である。 この段階で、僕はかなり悲観的になっていた。「待っても仕方ない」という考えになっていたのである。1000万円前後の物件は、必ず何かいわくつきで、そうなると結局、消去法により2番目に見たテラスハウスになってしまう。そんな僕の気持ちを見透かしてか、担当者は「あの物件は、すでに買いたいという客がいて、資金の問題さえクリアーすれば、購入の申し込みをするといっています。先に買われて後悔しないでください」と前回会ったときにいい、大幅な割引きにも応じるというようなことを匂わせた。僕は、1180万円の物件を1000万円程度に下げてもらえば、いいかもしれないと思っていたが、妻はあまり乗り気ではなく、「いい物件の出るまで、待ちましょう」ということになったのだが、その気持ちが揺らいできた。 しかし、時間の経つにつれ、売れてしまったら仕方ない、僕たちとは縁のなかった物件と思って諦めようというような、諦観に似たような気持ちが強くなった。それに、家は絶対に買わなくてはいけないというものではない。確かに、買うのなら早いに越したことはない。年を取ってからでは、ローンを組むのは難しく、そうなると自己資金の一括払いで買える物件しか選択肢は無くなる。だから、できれば、今年中に決めてしまいたいが、焦りは禁物である。腹を据えてじっくりいこうと思った。 いい物件はいつ現われるかわからないので、ネットで毎日中古戸建ての情報サイトをチェックしていた。そして、築年数はやや経っているが、崖地ではなく、道路から高低差がなく玄関まで行けて、比較的駅に近い物件が出た。価格も980万円と予算内だった。条件のいいわりには、価格の安いのが気になったが、物件を見なければ始まらない。早速、不動産店に内見の予約を入れ、週末にいくことになった。 物件は、平坦な前面の道路から高低差なく玄関までいくことができた。当たり前のことのように思われるかもしれないが、価格1000万円前後の物件だとなかなかないことなのである。1987年築の築年数29年、4DKの物件だが、外壁を平成22年に塗装しているので外観は比較的きれいに見えた。しかし、中に入るとやはり築30年という感じで、一昔前の間取りで、妻は、早くも気に入らない感じを出していた。 僕も期待していただけに落胆したが、リフォームをすれば、良くなるような気もした。というもの、造りは古いが、家の中もDKのフローリングや和室の天井を張り替えていたり、そこそこ手が入っているし、悪い造りではないように思えたのである。二階の日当たりは良かったが、襖や壁に子供の落書きがあり、張替えが必要になりそうだった。ただ出窓のある角部屋は雰囲気が明るく、居心地はよさそうだった。それほど酷くなければ、平坦な道路から高低差なく玄関まで行けて、耐震基準の見直された1981年以降の建築だし、最寄りの駅から徒歩圏内という条件も満たしていることから、決めてもいいと思っていたが、そうはいかなくなってしまった。 内見の終わった後、二軒目の物件を見に行った。この物件は、不動産店の担当者が探してくれたものだった。やや、勤め先からは遠いが、平成2年築のMホーム施行の住宅だった。価格は当初1480万円だったが、その後1380万円に値下がりし、さらに物件を管理する不動産屋から内々に1300万円でOKという返事をもらっているという。ここも、銀行の担保になっている物件だった。 オレンジ色の羽目板の外観のきれいな家だった。一階には広いLDKがあり、二階は洋室が三部屋と間取りは理想的で、対面型のキッチン、広い浴室、妻はすっかり気に入ってしまった。しかし、僕はあまりいい印象を持てなかった。一階の出窓のところには観葉植物が放置されており、それらはすべて枯れていた。荷物はほとんど残っていなかったが、LDKの真ん中辺りに、オートバイ用のヘルメットなど小物が置いてあった。担当者の話によると、引っ越しは完全に終わっていないということだった。 二階の天井部分のクロスに茶色いシミがあり、担当者に訊くと「タバコでしょう」といわれた。しかし、タバコのニコチンによる黄ばみは、全体的に広がるもので、ある部分だけに集中はしない。雨漏りによるシミのように思えた。さらに、ベランダには、半透明の屋根が付いているが、その上にドロがいっぱい付着していた。買ってから、一度も掃除をしていないのかもしれない。住宅ローンの破たんということから考えて、家主は、そのことで頭がいっぱいになり、家の手入れまでに気が回らなかったのかもしれない。一階の洗濯室のドアの部分も、何故か木が大きく削れており、無頓着さをあらわしているように思えた。外壁にエアコンのダクトを無理やり葉がしたような個所があり、塗装が無残にはげている。 しかし、妻は洋風のこの家をえらく気に入り、ここならリフォームをしなくてもいいと言い出した。しかし、僕は家に対する家主の愛情が全く感じられず、手を入れた跡のないことや、職場から遠いこと、そして価格が予算をオーバーしていることを考慮し、ここは止めた方がいいと妻を説得した。バスと電車2本を乗り継いで、会社へ行くことを考えたようで、妻も納得してくれた。 問題は、一軒目である。古い間取りであるが、価格、平坦地にあること、駅からの距離、そして職場への通勤などを考えると、買いであるように思った。あとは、リフォームしてどれだけよくなるかということだ。諸経費を除く予算1200万円で価格が980万円、差し引き220万円をリフォームに充てることができる。その220万円でどこまでできるのだろう? まずは、行いたいリフォームはキッチンの交換、そして、DKに繋がる和室をフローリングの洋室に変えて、DKと一体化してLDKにしたい。さらに、浴室をシステムバス、洗面台の交換、二階の和室の畳と襖の張り替え、そして、全面的なクロス張替え…、200万円は軽く突破してしまいそうである。陽が落ちて、すっかり辺りの暗くなった帰りの車の中、担当者にリフォームのことを訊くと、予算200万円と決めて、この範囲でお願いしますということにするしかないですねぇといわれた。あれがしたい、これもやりたいと積み重ねていくと、予算を遥かに超えてしまうというのがその理由である。 家に帰ってから、最初に内見した物件のリフォームの見積書をみた。総額は400万円を超えていたが、それはピアノを置くための防音工事が大きなウェイトを占めているためで、それを除くと320万円ほどでキッチン、浴室、トイレ、洗面台といった水回り一式にクロスの張り替え、フローリングの張り替えまで含まれていた。ということは300万円くらいあれば、内装のほぼ全面的なリフォームは可能になるかもしれない。しかし、現実問題として、リフォームに300万円をかけるのは、無理である。 この物件を見送り、さらに待つことにするか?しかし、待ったとしても、さらに好条件の物件が出る保証はない。決断するべきだと思った僕は、あまり乗り気ではない妻を説得することにした。妻は、始めは渋っていたが、これまでの経過から、これ以上の条件の揃った物件の出てくる可能性は低いと判断したようで、僕の意見を受け入れ、購入することに同意してくれた。 僕は早速、不動産会社の担当者に、もう一度内見した後、購入の申し込みをするつもりなので、そうなった場合に必要なものを教えてほしいとメールした。翌日、担当者から「二人の印鑑を持参してください。申込みされるのであれば、本審査に入るので、その書類に記入することになります」という返信がきた。(2016.6.14) |