年収200万円のパートでも、家は買えるか?

3.事前審査

 翌週の日曜日、言われたものを持って不動産店にいった。自宅で記入した事前審査の用紙と源泉徴収票などを担当者に渡した。彼女は、必要なものをコピーにとり、その後、「ここは審査が緩いんです。こちらの用紙にも記入お願いします」と一枚の用紙を差し出した。そこは、その不動産会社の提携している住宅ローン専門の会社だった。しかし、いくら審査が緩いといっても、誰でもOKというわけでもないだろう。融資が受けられなければ、住宅を買うことは夢のまま終わってしまう。早々に山場の訪れた気持ちになった。

 それにしても、まだ購入する物件も決まっていないのに、事前審査とは…と疑問に思い、担当者に訊くと、先日、内見したテラスハウスを前提として審査に出すという。それが通れば他にところも大丈夫だと思うので、物件探しに集中できるというわけである。

 この日は、融資の話が中心だったが、事前にメールでいくつか物件の紹介があった。僕らが低所得者にもかかわらず、1500万円近い物件の資料も送られていたので、担当者が僕たちの経済事情を今ひとつ把握していないのか、或いはそのくらいまでなら、購入可能と考えているのか、わからなかった。しかし、ローンが通ったと仮定しても、1500万円の物件を購入すれば、後々、厳しくなることは目に見えている。

 担当者の送って来た物件の中から、ふたつ、良さそうなものがあったので、内見したいと思っていた。しかし、そのうちの一件は、すでに申込みが入ってしまったということだった。駅にも比較的近く、間取りもよく、築年数もそれほど古くなく、期待していたので残念だった。もう、一件は、築年数が古く、また、急勾配ではないにしても、階段の途中にあるような家で、あまり触手の動くものではなかったが、立地場所がよかったので見る気になったのである。

 担当者と車に乗り、現地に向かったが、鍵が売り主から届いていないので、外観だけみることになった。購入する可能性は低いと思っていたので、とりあえず外観だけで十分のように僕も思った。予想に反して気に入れば、改めて内見させてもらえば、いいのである。公園の横に車を止め、その公園前の道路から伸びる下り坂の途中に物件はあった。谷の下の方なので、日当たりは悪そうだった。やはり、築年数並みに古かったが、立地場所のいいため、価格は1250万円と僕たちの予算をややオーバーするくらいだった。

 外観をみただけだから何ともいえないが、住むとなったら、それなりのリフォームが必要になりそうで、予算から考えると、資金的にも購入は不可能ということになる。夕方ということもあり、窪地にある家は陰気な雰囲気だった。

 車に戻ると、妻はスマホで見つけた物件を見たいと言い出した。それは、前に僕もネットで見ていて、狭い家だが外見はきれいで、駅にも近く場所は最高だった。ただ、価格が1380万円と完全に予算オーバーしていたため、内見するつもりはなかったのである。妻からスマホの画面をみせられた担当者は、「予算オーバーしていますけど、大丈夫ですか?」と僕に訊いてきた。家の外観の良さと立地場所から、僕も興味があり、できることなら内見してみたいと、彼女に伝えた。

 彼女は、その物件を管理する不動産屋に電話をかけ、内見できるかどうか確認しようとしたが、なかなか担当者が捕まらないようだった。僕は、知らなかったのだが、現在、売却依頼を受けた物件は、レインズという不動産会社がお互いに情報を共有するために設けられたシステムに登録することが義務つけられており、どの不動産店からでも情報を得られる。つまり、購入者は、それぞれの物件を管理する不動産店に足を運ぶ必要はなく、窓口をひとつに絞ることが出来るのである。その窓口となる担当者は、よく動く働き者で、信頼できる人物の必要がある。前の不動産店の担当者は妻が同じくらいの価格の物件を訊いたとき、即座に「ない」と返答したことから考えて、熱心にやってくれそうになかった。今度の担当者は、とりあえずメールで情報を送ってくれたりしているので、前の担当者よりはよさそうな気がした。

 「とにかく、物件の近くにいってみましょう」ということで、物件のある住所までいったが、肝心の番地まではわからない。担当者は、物件を管理する不動産店に連絡を入れるが、なおも担当者は捕まらない。しかし、それは無理の無いことかもしれなかった。その物件を管理する不動産店は、屋号から判断する限り個人経営の店で、日曜日ともなれば、物件の内見などで外出している可能性が高い。大きな会社であれば、代わりの人もいるのだろうが、小さな店だとすれば、そういう人もいないかもしれない。外観だけでも見せようと、彼女は物件のある付近を車で周ってくれたが、見つけることは出来なかった。不動産店に戻り、「事前審査の結果は木曜日くらいまでには出るでしょう」と担当者はいった。(2016.5.22)


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