ストーカー 補遺

 僕がAさんとの関係の中でマズイなと思った最初の行為は、電話に出てもらうため公衆電話から彼女の携帯に、それまで連絡したことの無かった休日の昼間に電話したことでした。あまりに姑息な手段で、逡巡するものがありましたが、彼女と話をしたいという気持ちの方が勝ってしまったのです。

 それまで、僕はAさんが‘都合がいい’と言っていた平日の十時から十一時の間にしか電話をしたことはありませんでした。だいたい週二日くらいのペースだったと思います。ただ、電話に出てくれなかったときは、時間をおいて二、三回かけたことはありました。

 もともと僕は女性に対してもマメな方ではなく、ずぼらなので、よくストーカー報道で聞くような一日に数十回、電話やメールをするといった根気はありませんでした。ただ、好ましくない相手の場合、一日に二、三回の電話でも‘しつこい’と思われることもあり得ます。逆に好きな人であれば、日に十数回メールしたとしても、ストーカーといわれることはないでしょう。セクハラと同じで、同じような行為であっても、それを行う人との関係で受け取り方は違ってきてしまうのです。

 Aさんと関係が悪化しながら、僕が彼女にこだわってしまった理由は、それは何故、彼女が僕を避けるようになったのかわからなかったからです。それまでも、女性との付き合いで同じようなことはありました。電話をしてもなかなか出てくれなくなったり、デートに誘ってもなんだかんだと理由をつけて断られることが続いたり…。

 はっきり別れたいといわず、何となく遠ざかることによって、相手に自分の真意を理解させるということなのでしょう。ただ、Aさんの場合は何の‘予兆’もなく、突然、避けられ始めたので、混乱してしまいました。

 当時、僕は無職でした。そのせいでしょうか、Aさんに依存する気持ちが強く、大げさにいえば彼女の存在によって、自分の存在理由を確認していたように思います。彼女と会えなくなったことにより、大きな喪失感を覚えました。胸の中にぽっかりと空いた穴は、簡単には埋められそうにありませんでした。それも、ふたりの結末を何となく予兆しながらも、彼女に連絡を続けた理由だと思います。

 ストーカー事件の報道などをみていますと、交際を断られたり、または、別れを切り出され、それを受け入れることが出来ず、つきまといや執拗な電話やメール、自宅周辺での待ち伏せなどの始まることが多く、別れ方、断り方のまずさが、相手をストーカーにしてしまうようです。

 となると、いかに上手に別れるかということになりそうですが、僕自身、特に経験豊富というわけでもなく、どちらかといえばそういったことに疎い方なので、ネットでいろいろな意見を読んでみましたが、やはり上手に別れるということは、誰にとっても難しいもののようで、これだという処方箋をみつけることはできませんでした。ただ、それでは仕方ないので、自分なりに、これは‘そうだ’というと思われるものを書きます。

 まず、いきなりメールや電話での連絡を止め、音信不通のような状況にしてしまうのは、止めた方がいいということです。このような方法は僕もそうでしたが、相手を混乱させるだけで、相手はなんでそうなってしまったのかという理由を知ろうとするため、しつこく電話やメールをしてきたり、自宅や勤務先周辺で待ち伏せなどということになりかねません。相手の人間性を全く無視したやり方で、怒りや恨みを増幅させてしまいます。

 また、わざと自分を汚くみせて、相手の気持ちが離れるように仕向けるという方法をとる人もいると思います。実際に、僕の付き合った女性のなかにも、このような人はいました。その女性は、自分は男出入りが激しいというようなことを匂わせて、僕の気持ちが離れるようにしたいようでしたが、明らかにウソがバレバレでした。ただ、それによって彼女は別れたがっているのだなと感じ、僕は徐々に離れていきましたが、人によっては逆効果になる可能性もあり、あまり勧められる方法ではないように思います。

 いろいろな意見で共通しているのは、相手に対して真摯な姿勢で向き合うというものです。自分が悪者になることを怖れず、または無理に悪者になろうとせず、別れたい理由を、それが相手に原因のあることでも、自分の事情でも、相手にしっかりと伝えることです。難しいことですが、感情的にならず、できるだけ理性的に穏やかに話すことです。相手が‘普通の人’なら、なかなかすんなりとはいかないでしょうが、やがて受け入れてくれるように思います。

 さらに別れた後も、傷ついた相手がある程度立ち直るまでフォローするというものもありました。「話したいことがあったら、これからも聞くから」と相手に伝えるというものです。個人的に、これはかなり好ましいことだと思いました。別れた後もある程度の期間、あるいは友人として見守るというのは、好ましい関係に落ち着く可能性もありますし、相手をストーカー化させるということはまずないと思います。このようなことをいわれれば、普通は、徐々にクールダウンしていき、別れを軟着陸することができるでしょう。ただ、これは相手が分別のある人に限られるかもしれません。下手をすると、「あいつまだ俺に気があるのかも」と勘違いさせることにもなりかねませんので、相手を見極めることが必要です。

 そして、最後に別れたがっている相手を繋ぎとめるということは、まず不可能ということです。余程、深い間柄や事情があるのなら、或いは関係の修復や再構築をおこなって復縁ということもあるかもしれませんが、通常ではありえません。したがって、相手に別れを切り出されたら、きっぱりと諦めることです。復縁を迫って、電話やメールを何十回もしたり、相手を待ち伏せしたりすることは、事態を悪化させるだけで、相手をさらに遠ざけるでしょう。そういった行為は相手を苦しめるだけでなく、自分自身も醜く変貌させてしまいます。

 ストーカーの加害者にならないために、相手を恨んだり、責めることは止め、自分のことを考えましょう。自分の人生を大切にすることをまず思いましょう。別れは大変辛いことですが、それを受け入れることによって、次の一歩が踏み出せるように思います。(2013.11.3)


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