ドカベンは泣いている

 子供の頃の愛読書といえば、少年チャンピオンだった。‘がきデカ’‘ドカベン’‘魔太郎が来る’の三作品の単行本の発売日には、すぐ書店に走った。特に‘魔太郎が来る!!’は全巻持っていたくらい好きだった。

 その秋田書店が、消費者庁から景品表示法違反の措置命令を受けた。月刊漫画誌三誌で読者プレゼントの当選者数の水増しが行われていたのである。例えば誌上でワンセグポータブルプレイヤーの当選者二名としていたのに、実際には一人にしか提供していなかった。

 この不正が発覚したのは秋田書店に勤務していた元女性社員が、消費者庁に告発したことによる。この女性は、2007年秋田書店に入社、月刊誌の編集部に配属され、読者プレゼントの担当になった。前担当者との引き継ぎで当選者の水増しの行われていることを知った。

 女性は上司に当選者の水増しを止めるように訴えたが、「会社に残りたければ、黙って仕事をしろ」と叱責された。女性は不正行為を続けるうちに、睡眠障害や適応障害を発症し、2011年9月から休職していたが、2012年3月に「多数の読者にプレゼントを発送せず、不法に搾取した」という理由で解雇された。女性が「私が景品を盗んだという証拠でもあるのですか?」と問いただすと、会社側は「盗んだことを証明する必要はない」と答えたという。

 女性は首都圏青年ユニオンと事態解決に向けて、2012年夏に消費者庁に資料提供を行い、今回の秋田書店への措置命令となった。しかし、消費者庁の勧告が出たにもかかわらず、秋田書店は自身のホームページに「元社員が賞品をほしいままに不法に搾取した」との見解を載せている。これに対して、首都圏青年ユニオンは「ブラック企業の開き直りである」としている。女性と首都圏青年ユニオンは、懲戒解雇撤回にむけて、準備中である。

 一方、秋田書店の総務部は内部調査を実施し、問題になっている三誌は2005年頃から水増しを行っていたようだという認識を明らかにしている。水増しした理由として、プレゼントを提供するメーカーが不況により無償提供してくれなくなり、自腹で賞品を用意することは苦しかったということである。元女性社員に罪をなすりつけたことに関しては、「コメントできない」と回答している。

 この問題から、日本の会社の体質が、みえてくる。今回の水増しが2005年当時から行われていたとすると、実に8年間、秋田書店ではこの不正に対して社員が見て見ぬ振りをしてきたということになる。この不正を本気でどうにかしようとする人間がいなかったわけだ。告発をした元女性社員も、上司から会社に残りたければ指示に従うようにいわれ、休職に追い込まれるまでの間、良心の呵責に耐えながら不正に関与していた。そして、濡れ衣を着せられ解雇された後、告発している。つまり、日本では会社内に蔓延っている不正や悪習を、内部で是正もしくは改善することは、ほとんど不可能に近いのである。

 日本の会社組織は、旧態依然とした村社会そのままである。したがって、その中で慣習化していること、例えそれが反社会的であったり、顧客や社員の不利益になることもでも、正そうとすると周囲から有象無象の圧力をうけることになる。波風立てる行為を、徹底的に嫌うのである。有給休暇を取るといったさざ波にもならないようなことでも、かなり気を使わなくてはならないのが、日本の会社の現状だ。したがって、自身の保身や周囲との軋轢をさけるため、周りに迎合するということになる。

 閉じた空間に長時間いると、普通の感覚が失われる。それを防ぐためには、別の空間に出入りすることだが、現在のように長時間労働が当たり前になっている状況では、それはなかなか難しいものがある。

 長時間労働に耐えうる下地は高校や大学、近年では中学校または小学校の入試から作られるように思う。とにかく受験に合格することだけが重要で、勉強さえしていれば、他のことはどうでもいいという状態になる。社会人になったらなったで、勉強が仕事に変わるだけで、会社という閉じた空間が全てになり、公共性など身に着くはずはない。

 現在働いている会社で退職後、残業の未払い分を請求した社員は、それ以前に体調を崩して何回か休職を余儀なくされていたし、今回、秋田書店を告発した女性も社員も同様だった。二人とも、心身ともボロボロの状態になり、やっと告発に踏み切ることができたのである。

 風通しのよく、透明性の高い企業文化というものは実現するのだろうか?時間に解決のできない問題はないと思うが、僕が社会人になって20年経った今でも、新入社員の頃とあまり変わりのない現状をみると絶望的な気持ちになる。しかし、勇気をもって行動を起こす人が出てくることによって、その時間は確実に短くなると思う。(2013.9.9)


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