引っ越しをして、新しい住まいに移った後、最寄りの駅やバス停までの道順や、近くのスーパーやコンビニなど、実際に歩いて調べると思う。うちに関しては、まず家の場所の特定から始めなくてはならなかった。 最初に現在の住まいに来たのは二月上旬で、不動産業者といっしょに内見したときだった。不動産屋の軽自動車に妻とふたり後部座席に座り、連れてこられたのである。途中までは快適なドライブだったが、国道から住宅街の細い道に入ってからが大変だった。狭く入りくんだ道が続き、周りは住宅ばかりで目印になるようなものがなく、何処を走っているのか全くわからなくなった。事情は運転している不動産業者もあまり変らなかったらしく、道に迷ってしまった。 その車はナビを搭載しており、「この先を左折です」とか「目的地まであと50メートルです」とか、煩いくらいにアナウンスがされたが、一向に‘目的地’に着かなかった。さらに、前から車がくれば、すれ違えるところまでどちらかがバックしなくてはならなかったし、住宅街ということで意外と人通りがあり、ハンドルを握る不動産業者も疲労の色が滲んでいた。「この辺りは道が狭くて、入り組んでてイヤですね」などと愚痴も出始めた頃、偶然という感じで、やっと目的の物件に着いた。 二回目にいったのも、不動産業者といっしょだった。契約を終え、もう一度部屋を見せてもらうことにしたのである。部屋の間取りや広さを体感して、家具の配置を考えるためだった。初めのときの不動産屋は仲介業者だったが、このときの業者は管理会社の人だったので、道に迷うということもなく、不動産屋から物件まで目印になるようなものを教えてもらいながら、車でむかった。 ただ、その‘目印’もたばこ屋だったり、郵便ポストだったりして、近くにいかなければわからないものばかりであった。それでも、道順がそれほど複雑ではなかったので、何とか不動産屋から新しい住まいまでの行き方はわかった。しかし、新しい住まいに行くのに不動産屋経由ではあまりにも時間がかかり過ぎる。部屋を見終わった後、最寄りの駅まで道順を教えてもらいながら、送ってもらったが、ほとんど理解出来ないまま駅に着いてしまった。 引っ越しの前日、初めてひとりで新居に向かった。引っ越しに備え、何もない部屋で待たなくてはならない妻のために、ラジカセを持っていこうとしたのである。最寄りの駅から不動産業者に教えてもらった通りに行こうとしたが、五分もしないうちにわからなくなってしまった。ただ家だけが立ち並び、道が入り組んで、迷路に迷い込んでしまった気分になった。 駅からの唯一の目印になりそうだった交番のところまでは何とか辿り着いたが、そこから先でまた迷ってしまった。仕方なく、歩いている人に家の住所を告げ、道を尋ねた。それを二回繰り返し、通常なら二十分くらいのところを倍以上もかかって、ようやく到着することができたのである。 行きでしっかりとした道順を覚えることができなかったため、帰りもまた道に迷い、気づくと最寄の駅ではなく、そのひとつ先に駅の近くまで行ってしまうというようなことになった。家に帰ってから地図で自分の歩いた経路を辿り、何処で間違えたかを調べ、ようやくおぼろげながら駅までの道程がみえてきた。 引っ越し後、会社に通うようになってからも、初めの頃はよく道を間違えた。特に帰りである。行きとは見える景色が違ったり、暗くなっていたり、或いはY字路など行きは道なりで行けたところが、帰りでは分岐になってしまうためだった。それでも、郵便ポスト、ごみ屋敷、五差路、交番、などいくつかの目印を設定していくことで、ようやく駅まで最短で行けるようになった。 駅までの道順が分かった後はスーパーである。基本的に買物は会社近くの大型ショッピングモールで済ませてしまうが、休日などは家の近くで買い物をしなくてはならない。駅近くにはいくつかスーパーはあるが、往復するだけで四十分以上かかってしまう。地図をみると徒歩で二十分以内で行けそうなスーパーが二件あり、まずはその近い方にいってみることにした。 そこは家から徒歩で十二、三分、急坂の下にある小さなスーパーだった。基本的な食材やお菓子や飲み物を買うにはよさそうだったが、品数は少なかった。そして、最後の急坂は市街地ではなかなか見かけないほどのレベルである。上り終えると、息が切れた。 もう一軒はやや遠く、徒歩で二十分くらいだった。こちらは品数も多く、特に魚介類が豊富だった。やはり最後に坂があるが、前のスーパーの近くのものに比べればましだった。基本的には、こちらのスーパーがメインになりそうだ。このスーパーに行く途中に公園があり、桜がきれいに咲いていた。桜の季節には、いい散歩コースになりそうだった。 引っ越しというのは思いのほか、ストレスがかかるそうで、ウツになってしまう人もいるらしい。それを防ぐには、新しい住まいの周りの探索が最適のようである。新鮮な気持ちになれるし、新しい景色にも出会える。休日には、散歩気分で妻といっしょに、いろいろと歩いてみたい。(2013.4.28) |