増殖する宣伝番組

 焼肉チェーン店「焼肉酒家えびす」でユッケなどを食べた人たちが集団食中毒になるという事件が起きた。4月17日に「焼肉酒家えびす福井渕店」で食事をした未就学の男児が死亡、さらに同21日「同砺波店」を家族と訪れた男児、同23日やはり家族で来店していた40代と70代の女性が死亡し、死者は4人、食中毒患者は富山、福井、神奈川の3県で102人にのぼり、うち重症者は24人に及んでいる。

 食中毒事件の起こる前の4月18日、日本テレビ系列で放送されている「人生が変わる1分間の深イイ話」で、「焼肉酒家えびす」が紹介されている。神奈川県在住の清水達也さんという一般視聴者の投稿で、激安焼肉店の安さと人気の秘密が明かされる。それによるとメニューを絞り込み人気の19種類の肉だけを大量に仕入れることによって激安価格を実現し、黒を基調としたスタイリッシュな内装によって高級感を演出、さらにテーブルごとに担当をつけ、高級焼き肉店並みの接客を行うことによって人気を得ているということだった。

 この番組では話を聞いて、スタジオにいる芸能人が「深イイ」か「ウーン」のどちらかにレバーを倒すのであるが、この時は全員が「深イイ」の方にレバーを倒し、司会者や一部出演者が「焼肉酒家えびす」を絶賛していた。その後、食中毒事件を起こしたということを抜きにしても、この展開に僕は強い違和感を覚えた。

 この激安焼肉店の安さと人気の秘密、部位を絞った大量の仕入れと高級店並みのサービスという話が、僕にはどうしても「深イイ」とは思えないのである。「深イイ」というより、月並みであり、それほど感心するほどのものでもない。もちろん、感じ方は人それぞれであるから、「深イイ」と思う人がいても不思議はないが、ほとんど会社の宣伝と思われるようなビデオに10人全員がレバーを「深イイ」に倒してしまった光景に、何やら面妖なものを感じた。

 「深イイ話」に限らず、最近はこの手の番組があまりにも多い。番組内で、チェーン店などを取り上げ絶賛する。テレビの本質は宣伝であるが、あまりに露骨でうんざりする。

 僕はそれほどお金に余裕のないため、ほとんど外食はしないが、昼食時などたまにパート仲間と会社の近くにあるファミリーレストランに行くことがある。そのファミリーレストランがある番組で取り上げられていたのを見たことがあるが、開いた口が塞がらなかった。それは、そのファミリーレストランのメニューの人気ベストテンを当てる番組だったのであるが、料理が出されるたびに「おいしい!」「おいしい!」をみんなで連発し、「これ絶対入ってるよ!」などとハイテンションで騒ぎまくり、僕は、彼らと自分のギャップに興ざめする思いがした。

 その中には僕の食べたことのある料理もいくつか含まれていた。確かに、まずくはなかったが、「おいしい!」と大声で叫ぶほど美味しくはなかった。いってみれば、そういった店で想像できる味の範囲だったのである。

 このような番組が増えてきた背景には不況があるようだが、番組内に巧みに盛り込むことによって視聴者の警戒心は薄れ、さらに出演者が絶賛することにより‘素晴らしい’と刷り込ませる。宣伝ならその意図を明確にして伝えれば視聴者も多少割引をして見るところであるが、巧みに中立を装って放送されると素直に信じてしまう可能性が強い。その人物の信用度にもよるだろうが、中立の第三者の意見というものは受け入れやすいもので、口コミが強い所以である。

 「焼肉酒家えびす」は視聴者の投稿によって、番組に取り上げられたことになっている。投稿者は「焼肉酒家えびす」に来店して、価格の安さと接客の良さに「これは深イイ」と感動して、番組に情報を寄せたのであろうか?一部では、「焼肉酒家えびす」の経営母体であるフーズ・フォーラスが大手広告代理店にお金を出して、番組を作成してもらったという情報もある。「深イイ」話でもないのに、出演者全員が「深イイ」にレバーを倒したことと合わせて、‘やらせ’の臭いがぷんぷんする。神奈川県清水達也さんという人物は実在するのであろうか?(2011.5.10)


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