会社を辞める時期

 僕は今まで6つ会社を変わっている。ということは5回、退職の経験があるということになる。その退職の時期は1社目が3月末、2社目も3月末、3社目が7月下旬、4社目が9月末、そして5社目が4月下旬ということになる。会社を辞める時期というのは、果たしていつがいいのだろうか?そして、いつがよくないのだろうか?僕が会社を辞める時期の善し悪しというものを実感したのは11年間勤めた会社を辞めた後だった。

 9月末に会社を退職した僕はハローワークで雇用保険の手続き、国民年金や国民健康保険の切り換えなどを行なった後、東北旅行に行った。このとき真っ先に感じたのは、「陽が短くなったな」ということだった。車で青森県の八戸まで行き、市内に宿を取り、夕食をとろうと外に出た時刻は6時くらいだったが、辺りはもう真っ暗だった。辺りが暗く視界が狭まると、心の視界も狭まるようで、旅に出ているのにあまり開放的な気分になれなかった。もちろん先行き不透明という不安もあったろうが、それ以上に陽の暮れる早さに僕の心は縮こまってしまったように思う。

 旅から家に帰って来ても、陽の短さに僕の心は弾みを失い、何とも言えない喪失感に包まれた。秋になると何となく物悲しいといった感情が起きるが、それが強くなった。それに寒さが追い討ちをかけた。やることもなく、夕暮れの街を散歩しているときなど、まだ5時前なのに暗くなっていく風景に、辺りの空気も沈んでいくようで僕の気持ちも寂寞としたものになった。

 冬期うつ病という病がある。秋から冬にかけて気分が落ちこみ、何もやる気が起きなくなり、春になると回復するという病であるが、多かれ少なかれこういう傾向を持つ人は多いのではないだろうか。この冬期うつ病、日照時間との関連性が強いらしい。確かに夏の北海道などは7時くらいでもまだ結構明るかったりして、朝も4時前くらいには明るくなってくるので1日が長く感じられて、活動的になる。

 陽が短いと気分も塞ぎ込みがちになったりして、やはり新しいことを始めたりするにはよくないような気がする。結局、この時は気持ちばかりが焦り、自分を見失っていった。そして、入りたくもない会社に入ってしまうという間違った結論を出してしまったのだ。

 1年で一番陽が長くなるのは、夏至の日である。今年は6月21日、ではこの前後に辞めるのが最良ということになるのだろうか?

 会社を辞める時期というのは多くがボーナスと直結していると思う。「今度、ボーナスを貰ったら辞めよう」とかいう科白は誰でも聞いたことがあるはずだ。したがって現実問題としてボーナス直前の6月末に会社を辞めようとする人は少なく、夏のボーナスが出た以降に退職するケースが多いと思う。

 この7月下旬から8月にかけての夏の時期は1年で最も求人が減る時期にあたる。したがって、本格的な求職活動は9月からということになってしまう。9月も中旬を過ぎれば陽が短くなってきたことが実感できるようになる。そして…と僕が辿ったようなパターンにはまり込んでしまう可能性も出て来るわけだ。

 在職中に次の転職先を決めていない限り、就職活動にはある一定の期間がかかるものだ。夏至の前後に退職するということは、それほど悪いことではないと思うが、山の頂上であるということを考えないといけない。あとは下る一方になってしまうのだ。日照時間が長いということより、それが日々長くなっていくということの方が重要なのだ。陽が長くなっていくことを実感すると、不思議と気持ちも前向きになったりするものだ。

 ただし、今まで長い期間働いてきたのだから、夏の時期はゆっくりとバカンスにあて、秋から本格的に動こうという人にはいいかもしれない。9月に入れば求人も増えてくるし、気候も過ごし易くなってくる。ただ、この場合も余裕を持つことが大切で、年内に働き出すというより、翌年の3月つまり春くらいまでに見つかればいいやというくらいの気持ちが必要だと思う。

 陽が長くなっていく時期は冬至から夏至までの期間である。12月下旬から6月下旬だ。しかし、いくら陽が長くなっていくといっても、冬の時期の退職は避けた方がいいと思う。個人的に最良だと思うのは、3月末だ。

 関東では桜が咲くこの季節、気持ちも日に日に伸びやかになっていく。旅行をするのにも最適であり、3月末に退職して5月のゴールデンウィークくらいまでの1月半は自分の時間を愉しみ、その後、動き出すのがいいだろう。求人が減る夏までにいい仕事が見つからなければ、夏を思い切って休養に当てて、秋から再始動ということもできる。

 最悪の時期は、最良の時期の半年後ということになる。つまり9月末である。まだ、残暑が残っているこの季節、陽が日に日に短くなっていくことが実感でき、だんだんと物悲しくなっていく。求職活動にある一定の期間がかかることを考えれば、その脂の乗る時期に冬が当るため、精神的にあまりよくない。すんなりといい仕事が見つかればいいが、そうでなければ気持ちの焦りが必要以上に強くなり、物事を現実以上に悪く考えてしまったりする。

 その気持ちの焦りは、間違った方向に人を導いていく。自分に合った仕事、やりたい仕事というより、働ければ何処でもいいと考えるようになったりして、それに不採用が重なったりすると極めて間違った結論に飛びついてしまったりする。

 9月から1月くらいまでに、退職することになった場合、とにかく焦らずじっくりと次を探すことだ。気分が沈みがちになる季節だということを意識して、ゆったりとした気持ちを持ち、本格的に動くのは3月くらいからでいいというような感じでいいと思う。そう、春が来たら動き出そうというくらいの気持ちでいい。

 いつの時期に退職をしたとしても、一番の大敵は焦りだ。求職活動は半年から1年くらいのスパンで考えればいいと思う。それに考えてみれば、日本の場合、会社にずっと勤め続ければ、どんなに長い休みといっても一部の例外を除いて、2週間が限度なのではないだろうか。ということは退職するということは、一生のうちあまり機会のない長い休暇、バカンスを取ると考えてもいいのではないだろか?

 そのバカンス、何も早く終わらせることもないような気もする。子供の養育費や家のローンなど、どうしても次の仕事を早く見つけないといけないという人も多いと思うが、事情さえ許せば、この際、ゆっくり休んで自分の時間を持つということも決して無駄なことではない。

 人生は長い。そのうち半年や1年、ぶらぶらしていたとしても何の問題もないと思う。(2006.5.21)


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