好きの反対側

 友人の子供から質問された。その子は、高校2年生の女の子なのだけど
「一番好きな人と結婚してはいけないって友達から聞いたんだけど、何で?」と訊かれた。

 そういえば、僕もそんなことを、もうだいぶ昔に聞いたことがある。僕より、4歳年上の友人も聞いたことはあるらしい。しかし、ふたりともその理由は知らない。だけど、ただ知らないではあまりに素っ気無いし、子供から甘く見られる怖れもあるので何とか、その理由をこじつけてみた。

「たぶん、人間の感情って直線じゃないんだよ」
「どういうこと?」
「好きっていう感情のずっと遠くの反対側に嫌いって感情があるんじゃなくて、大好きのすぐ隣りに、大嫌いっていう感情があるんじゃないかな?そう、人間の感情って、円のように閉じたものじゃないかな?」
「言っている事がいまいち理解できないんだけど…」と友人の子供は不満顔である。
「諺に‘可愛さあまって憎さ百倍’っていうのがある。可愛過ぎると、もしそれが裏切られたとき、その反動で憎しみが非常に強くなるっていうこと。英語にすると‘The greatest hate springs from the greatest love.’感じでるでしょ?」
「そんな諺初めて聞いたし、英語もよくわからない」
「うーん、‘深い愛から大きな憎しみは生じる’とでも訳すかな」
「要すると、愛が強過ぎると、何かあったときに、その反動で憎しみが大きくなって、とんでもないことになりかねないっていうことでしょ」と僕の苦境を見かねた友人が助け舟を出した。

「ストーカー、みたいなもんだよ」と僕はわかりやすい例を上げたつもりだったが、
「でも愛が受け入れられなかったから、ストーカーになるんでしょ」と友人の子供も痛い所を突いて来る。
「でもさ、たとえ受け入れたとしても、いつか大変なことになるような気がしない?」
「うーん、ちょっと重くて辛いかもね」とわかったようなことを言う。

「じゃー、2番目に好きな人とならいいわけ?」
「2番目だと1番目に比べて、愛も弱いから、裏切られても多少は冷静に対処できるんじゃない」と友人は僕の説を理解してくれたようだ。
「そう、そう、‘大好き’の反対側に‘大嫌い’があるんじゃなくて、隣り同士なんだよ。‘好き’になればなるほど‘嫌い’に近づくから、2番目の方が1番目より‘嫌い’には遠いからいいんじゃない」と僕がフォローしたが
「何か、すごい屁理屈」と納得させることはできなかった。

「じゃー、好きの反対側には何があるの?」
「反対側っていう表現が正確かどうかわからないけど、例えば、‘成功’のすぐ近くには‘失敗’があって、そのふたつから最も遠い距離にあるのが‘何もしない’っていうことだと思う。だって何もしなければ、失敗もしないかわりに成功もないでしょ?だから、好きから最も遠い距離にある感情は、たぶん‘無関心’っていうヤツじゃないかな?」
「無関心って、寂しいね」と友人の子供は、ほんとに寂しそうな顔をして言った。(2005.10.15)


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