くたばれ!長時間労働(休暇編)

 以前にテレビで会社員やOLにずる休みをしたことがあるか、またその時どのような理由にしたかを街頭インタビューしたものがあった。ほとんどの人がずる休み経験者で、病気を理由にしていた人が多かったと記憶しているが、中には「親戚の人が亡くなった」「親が急病になった」等のシリアスな理由をでっちあげ、旅行に行ったりしている人も意外と多かった。僕自身も「親の具合が悪くなった」と嘘をつき、平日に友人と東北地方を旅行したことがある。

 どんな人でも平日に、旅行に行きたくなったり、ゴルフに行きたくなったり、遊園地に行きたくなったりする。友人との兼ね合いで平日にしか時間がとれなかったり、どうしても見たり参加したい行事が平日に重なってしまうこともある。そういう時、正規の手続きとしては、上司に私用との理由で有給休暇願を出し許可を得る。しかし、それをせず、誰もあからさまには文句の言えないような理由を考え、休暇を取ろうとする。これは一体どういうことなのだろう。

 多くの会社員が感じているように、日本の会社は休暇をとりづらいといった雰囲気がある。海外では有給休暇を100%消化するのは当たり前であり、労働者の権利との認識が一般的になっているが、日本では有給休暇は基本的にとらないもので、何かよんどころない事情があった時に申請するものという暗黙の諒解のようなものがある。したがっていわゆる「遊び」ではなかなか取りづらく、周りの目、特に上司の目を気にして、休暇をとりやすい理由をでっちあげるのだ。

 「明日、ゴルフに行きますから」などと言って休暇届を上司に出せば、いやみを言われたり、印象が悪くなり評価に影響することも有り得るが、「親の具合が悪いので…」ということにすれば、「まあ、それだったら仕方ないか」と納得させやすいというわけだ。

 テレビの街頭インタビューなどを聞いていると、みんな苦労しているなといった感じだが、本来、休暇は会社から与えられるものではなく、労働者の権利として行使できるものである。したがって、親が死のうと、彼女と遊びに行こうと、その理由に関係なく、自由に休暇がとれるような環境でなくてはならないはずだ。

 しかし、現実は会社側には、休暇を与えてやっているとの意識が強く、やむえない事情があるのならともかく「遊び」に行くため仕事を休むなど…といった考えが根強く残っており、また従業員もそういった会社側の圧力を敏感に感じているため、いわゆる「遊び」で休暇をとることに罪悪感を感じてしまったりする。

 さらに自分が休むと誰かに迷惑がかかるといった気持ちがこれを後押して、有給休暇の消化率の悪さに拍車をかけている。日本人だけではないかもしれないが、他人を助けるのはいいが、他人に助けられるのはいやという気持ちが強いように思う。このような気持ちはある意味では貴いものだと思うが、人間として未熟であり、自立していないように感じる。

 このような考えがまん延すると、やがて「自分は人に迷惑はかけないから、お前も迷惑をかけるなよ」といった雰囲気が定着して、その職場は強い閉塞感に包まれ、休暇を取って遊びに行くなどとんでもないという認識が支配的になり、そのうち病気にもなれないという気持ちも強くなり、みんなが過度のストレスに曝されるようになる。

 病気になり体調が悪くても、休まず出勤するようになったり、それが「あいつは偉い」などと評価されたりすると、さらに息苦しい雰囲気が職場を支配していく。このような環境で働いている人は、かなり多いのではないかと思う。僕自身も最後に勤めた会社が、こういう感じだった。そこは社長が「私用の有給休暇は許可しない」などと暴言を吐いていた。

 みんなが休暇を取ることは労働者の当然の権利であるという考えを持てば、「他人に迷惑がかかるから…」という認識は薄れ、自分の権利だけでなく、他人の権利も認められるようになると思う。「仕事のことは心配しないで、ゆっくり休んでください。今度、僕が休み時は、よろしくお願いしますね」というわけだ。職場の風通しもよくなり、休暇をとることに、いちいち気を使わなくてもすむようになるだろう。仕事が全てに優先するといった考えを変えていかないといけない。

 僕が働いていた会社で1社目と2社目めは比較的このような雰囲気があった。当時はバブルに入る直前からその最中にあたる時期だったので、会社も大らかだったのかもしれない。しかし、有給休暇の消化率は長引く不況やリストラのせいで、ここのところ下がる傾向にあり、ますます閉塞感が広がっているようである。下手に有給休暇を消化して、自分の評価に影響したらと、皆が縮こまっている。

 また、会社の意識というのも、なかなか変わるものではないし、労働者自体もあまりことを荒立てることを好まず、この意識変革はなかなか進まないかもしれない。しかし、ひとりひとりが自分の意識を変え、本来の正しい状態というのをしっかりと認識すれば、少しづつでも前に進む。何が正しいのかということは、誰にでもわかっているはずだ。「私用の有給休暇は許可しない」と言っていた社長は、「有給休暇は労働者の権利」だとも言っていた。(わかっていながら、その権利を認めない態度には大いに問題はあるが…)

 休暇というものは、会社から与えられるものではなく、労働者の当然の権利として行使するものだ。誰にも遠慮することはない。休む理由も関係ない。これからは「休ませてください」ではなく、「休みます」と胸を張って休暇届を出そう。少なくても、胸の内では。つづく…(2005.5.25)


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