有馬記念考

 12月26日は今年最後の大勝負、有馬記念である。中山競馬場で行なわれる芝2500mのこのレースはファン投票によりその上位10頭が選出され、残りは1年以内の重賞勝ち馬、そして獲得賞金順に出走馬が決まる。日本の人気馬・実力馬が一同に会して雌雄を決するレースだ。しかし、そんな大レースのわりには波乱が多いのである。

 僕の記憶にある中では平成3年のダイユウサクがその最大のものだ。ダイユウサクはそれまで、2000mまでしか勝鞍がなく、マイラーと思われていた馬だった。G1勝はもちろんなく、重賞は金杯(GV)を勝っているだけで、当日も14番人気という穴党でも思い浮ばない存在だったのだ。それが天皇賞馬メジロマックイーンを押さえ勝ってしまったのだから、何が起こったのかしばらくわからなかったくらいだった。資料を調べてみるとレース史上唯一の単勝万馬券のようで、これが有馬記念史上最大の波乱といえるかもしれない。

 この翌年には15番人気のメジロパーマーが逃げ切り、またしても波乱となった。そして、この年、一番人気に支持されながら11着に惨敗したトウカイテイオーが翌年、1年振りに出走したこのレースで勝ち、「トウカイテイオー奇跡の復活」とみんなに驚きと感動を与えた。さらに天皇賞(秋)で6着、ジャパンCで11着と惨敗し、もう終わったと言われたオグリキャップが突如復活して有終の美を飾ったのもこの有馬記念だ。

 引退レースとしての有馬記念で一番記憶に残っている馬はグリーングラスだ。トウショウボーイ、テンポントと3強を形成していたTTG最後の一頭として6歳まで走り続けたグリーングラスは最後の年、なかなか勝つことができなかった。そして引退レースの有馬記念、3コーナーで早々と先頭に立ったグリーングラスはゴール前外から強襲するメジロファントムを鼻差押さえて勝ち、この年の年度代表馬にも選ばれたのである。当時、高校生だった僕はまだ馬券は買えなかったが、応援していたグリーングラスの勝利に涙した。前述のトウカイテイオーやオグリキャップのことも合わせて考えると、劇的なことがよく起きるレースともいえる。

 では何故このようなことが、起きるのかというといくつかの理由が考えられる。まずは中山競馬場のコース形態である。東京競馬場に比べて狭い中山競馬場のコースは小回りで直線も短い。この競馬場で2500mのレースを行なうには、6つのコーナーを回ることになり、大レースのわりには展開に大きく左右される。

 また年の最後の行なわれるレースであるということも波乱の要因になっていると思われる。古馬の場合、有馬記念の前に天皇賞、ジャパンCとあり、そこを闘ってきた疲労の蓄積が問題となり、特に好走してきた馬は信用しきれないのである。3歳馬でも最近は菊花賞、ジャパンCというローテンションの馬が多く、体調が万全という馬は少ない。そこで前述のレースでまともに走らなかった馬、つまり惨敗しているような馬が台頭してきたりする。

 そして最後の大一番ということは騎手にも影響を与えるようだ。劇的なことが起きるのはこのためによるのではないかと僕は思うのだ。オグリキャップにしても、グリーングラスにしてもこれが最後のレースだと知っていたような走りっぷりで、それまでのレースとは一変している。当然、馬にそのようなことはわかるはずはない。しかし、鞍上の騎手は知っているのである。田原成貴騎手が「馬の魂をゆさぶる騎乗」と言っていたが、騎手の想いが馬に通じるということがあるのかもしれない。また、作戦的にも馬に合わせた無欲の騎乗というより、一発を狙った大胆な騎乗をする騎手が多いように思え、それが吉と出たり凶と出たりして波乱を生んでいる感じがする。

さて、そして今年の有馬記念である。

 まずは一番人気になりそうなゼンノロブロイである。天皇賞、ジャパンCと連勝、しかし、この連勝が曲者なのだ。今まで天皇賞・ジャパンC・有馬記念と3連勝した馬は長い歴史の中でもテイエムオペラオーしかおらず、連戦の疲れが出る可能性がある。ジャパンCを好タイムに勝っているだけに、その反動が気になる。

 北海道門別競馬から中央に兆戦しつづけるコスモバルクも体調面にかなりの不安を残す。この秋はゼンノロブロイより1戦多い、4戦だし長距離輸送といったハンデと常に闘ってきた。今回は門別に戻らず、大井で調整しているようでその点はいいと思うが、冷静に考えたら消しだろう。しかし、僕はこの1年ずっとコスモバルクを買い続けてきたのである。1年ずっと買いつづけた馬を、今年最後の大一番で止めるということはできない。それに冷静に考えれば1年休んでいたトウカイテイオーなど、さらに買えない状態だったのだ。しかし、それをあえて信じて買ったファンが勝ったのである。それにコスモバルクは中山競馬場には3戦3連帯2勝と相性がよく、セントライト記念では日本レコードで勝っているコースでもある。というわけで、僕はこの馬を信じることにする。負けてもともと、勝ったら…。

 菊花賞馬デルタブルース、この馬もジャパンCからの参戦である。菊花賞はフロックとの見方もあったが、JCでもゼンノロブロイ、コスモバルクについでの3着と力のあるところを見せた。中山競馬場でも勝鞍があり、脚質からもコース適正は心配ないだろう。ただ、やはり1戦多いような気はする。菊花賞から有馬記念に直行してくれれば、それほど人気もならず、面白かったのだけど…。

 宝塚記念を制して現在日本最強馬のタップダンスシチー。フランス凱旋門賞からの参戦で間隔はかなり開いているが、陣営のトーンは全く上がっていない。海外からの帰国組は検疫というハンデがあり、調整が難しいようである。これが引退レースであり、劇的なことが起きる有馬記念ということを考えると捨てがたいが、人気を考えるとあまり買う気にはなれない。

 長期休養から天皇賞、ジャパンCと使い良化してきたヒシミラクル。菊花賞・天皇賞・宝塚記念とGI3勝の実績はメンバー最上位である。人気薄で好走してきたが、この馬にとって中山のコースはいかにも合わない。長くいい脚を使うこの馬にとって、器用さと一瞬の切れ味を要求されるこのコースでの競馬はどうしても一致しないのだ。体調が万全であっても、有馬記念では手を出しにくい馬である。ただ、極端に人気がなければ、面白い存在かもしれない。

 他にG1ホースとしてはアドマイヤドン、ツルマルボーイといるが、前者はここのところずっとダートを使われてきた馬だし、後者は後方一気の脚質で中山には不向きであるため、消しが妥当のように思う。

 他の馬はやや力が落ちるが武豊騎乗のダイタクバートラムは要注意かもしれない。武騎手のことであるから、無難な騎乗はせずに何か思い切った策をとる可能性が強い。もともと人気があってもなくても、あまり無難な騎乗をしない騎手ではあるが、それほど人気にならない分、今回はさらに気が楽になるのではないだろうか。ただ、それが凶となる場合もあり、特に馬に実力がない場合は顕著になる。ローテーションにも疑問が残り、穴人気になるようであれば、あまり買いたくない存在である。

 僕が個人的に面白いと思っている馬はハーツクライという馬だ。この馬ダービーで2着にきた後、秋の競馬では惨敗続きなのだ。菊花賞では7着、ジャパンCでは10着と惨憺たるものである。しかも脚質は後方一気の追い込み馬のため、中山コースは全く合いそうにない。しかし、過去にこれと同じような感じで有馬記念を制した馬がいるのだ。シルクジャスティスという馬である。

 シルクジャスティスも菊花賞で5着、ジャパンCで5着と全く結果が出なかった。そして有馬記念、それまでの成績と脚質から考えて僕はハナから消しで眼中になかった。シルクジャスティスもハーツクライと同様に、後方一気しかできない不器用な馬だったのだ。しかし、ややメンバーが手薄であったとはいえ後方から豪快に差し切り、勝ったのである。シルクジャスティスに比べるとハーツクライはさらにその負け方は酷く、武騎手からも見捨てられ、横山騎手に乗り変わりになってしまった。しかし、その分人気はなく、穴中の穴といえる存在かもしれない。それに3歳馬は日々の成長分があるため、一概に見捨てられないところもある。

以上のことから
◎ コスモバルク
○ デルタブルース
▲ ゼンノロブロイ
△ ハーツクライ
となる。自信はまあまああるけど、自信があってもなくても、あまり当らないのが競馬である。簡単に当るようでは面白くないといった逆説的見方もある。ともかく、有馬記念が近づくと今年ももう終わりだなと実感するのである。(2004.12.23)


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