文化の育たない国

−近鉄・オリックスの合併問題について−

 僕がこの問題を初めて知ったのは、阪神タイガースの公式掲示板だったと思う。その中のスレッドに、「近鉄とオリックスが合併!?」というものがあり、驚いたのだけど、その時はガセだと思っていた。しかし、9月8日のオーナー会議で、そのガセだと初めは思っていた信じられないことが承認され、現実のものとなった。

 思えばこの3ヶ月の間、ファンの声を全く無視した話ばかりだった。近鉄・オリックス合併に始まり、さらにもう1つの合併が裏で進行中とか、10球団で1リーグに移行とか、最終目標は8球団で1リーグとか、巨人のパリーグ移籍とか…呆れ果てて言葉もでない。一体、この人たちは何がやりたいのか僕にはさっぱりわからない。

 僕は阪神ファンではあるが、パリーグで一番好きな球団は近鉄バッファローズなのだ。バッファローズ(もう近鉄とは呼びたくない)を好きになった理由は単純で、中学生の時、友達に頼まれたからだ。

 当時も今と同じでパリーグはあまり人気がなく、注目を集めてはいなかった。そんな中、比較的仲のいい友達がバッファローズファンだった。当時、バッファローズは12球団の中で唯一、一度も優勝経験のないチームで、その友達に「いっしょに応援して」と頼まれ「いいよ」と言ったのが始まりだった。

 後楽園球場で行なわれる巨人−阪神戦のチケットはなかなか取れなかったが、日ハム−近鉄戦は当日でも入れたので、他の友達も誘って、何回も観戦に行った。バッファローズにも鈴木啓示というすばらしい投手がいることも知ったし、梨田という面白いバッティングフォームの捕手がいることも知った。指揮をとっていたのは、後に悲劇の名将と呼ばれることになる西本監督だった。そしてだんだんとバッファローズが好きになっていったのである。

 中学を卒業して、その友達と離れ離れになってからでも、何となくバッファローズのことは気になり、特に阪神の暗黒時代はバッファローズの活躍によって慰められていたように思う。そのバッファローズがこのようなことになるとは、ほんとにショックだ。

 今まで球団の身売りは何回も行なわれてきた。なのに何故、今度は合併なのかがわからない。買いたいと手を上げてくれている企業もあるのだ。それを何の交渉もなく、一方的に断り、合併を急ぐというものファンには全く納得いかないものだ。

 その背景には1リーグ制にして、巨人戦のTV放映料や観客動員を目論むといった他力本願の姿勢が伺える。自らほとんど何も努力をしないで、他力に頼ってうまくいくはずなどないのだ。1リーグ制になれば、1、2年は目新しさからいい結果は、出るかもしれない。しかし、チーム数が減るということは、野球の裾野を狭くするのは確実で、ファンも野球選手を志す子供も減り、衰退へと向かっていくだろう。

 そもそも、プロ野球をここまでつまらなくしてしまった最大の責任は巨人にある。新リーグなどとちらつかせて他の球団を脅し、自らが有利なようにドラフト制度やFAを変えてしまった。プロスポーツが、面白くなるためには戦力の均衡が一番大切なことなのに、この操作でプロ野球に起こったことは、戦力の集中だった。昔から巨人には、ダーティなところはあったが、江川事件辺りからそれが表面に現れるようになり、最近ではますます露骨になって、なりふりかまわずという感じになってきた。元西武と元広島と元ヤクルトと元近鉄と元ダイエーの4番打者が、1チームに集っている様は醜悪ですらある。

 今や、巨人はプロ野球界のブッシュで、野球を愛するほとんどの人から嫌われている存在だ。ブッシュ政権が世界中から嫌われ、国内の支持も失いつつあるように、巨人もプロ野球ファンのみならず、巨人ファンからさえ愛想をつかされ始めている。視聴率が低迷しているのは、そのせいでこれからますます下がっていくように思われる。巨人はどうしようもない存在だが、そんな嫌われ者に自らの運命を預けようとする球団よりは、まだましだ。今回の問題をみてそう思った。

 近鉄・オリックスの球団幹部を見ていると、無能なうえ根性もなく、見えているのはお金だけで、球団を愛してくれているファン存在など全く眼中にないらしい。この2チームの幹部を見ていると、球団を合併する逡巡や苦悩など感じることはできず、楽しげですらある。一体どういう頭をしているのだろうと、その脳味噌をのぞいて見たくなる。小さく萎縮しているか、何処かが大きく欠けていることだろう。合併が承認されへらへら笑っている近鉄やオリックスのオーナーを見ていると、この人たちは何もわかっていないことがわかる。さらに、西武の堤オーナーに背中を押されて、もうひとつの合併に動いたロッテのオーナーなど、昼休みに昼食のパンを買いに行かされる使い走りのようで、バカ丸だしである。それを得意気に語っているのだから、どうしようもない。

 ここまで状況が酷くなった根本の原因は、親会社が野球をどう捉えていたかということに尽きると思う。Jリーグの場合はその根本にスポーツ文化の発展と定着といった理念があり、全体で発展していこうとしているのに対し、プロ野球はただ単に親会社の宣伝部隊だった。だから、野球界全体といった視点がなく、自分のチームさえよければいいといったエゴに支配されている。さらに、親会社のPRになればいいと、赤字になっても経営努力もしてこなかった。そのつけが一気に回って来たという感じだ。

 野球は文化である。バッファローズも文化の一部だ。それをこうも簡単に、何の躊躇いも努力もなく、消滅を決めてしまうとは、球団をただ単なる金儲けの道具としか思っていないではないだろうか。日本というのは、文化というものが育たず、経済のことしか頭にない心の貧しい国なのだなと痛切に感じてしまった。

「あなたは野球が好きですか?」と全てのオーナーに訊きたい。ほとんどが「いえ、野球なんかはどうでもいい。私が好きなのはお金です」と応えるのではないだろうか。プロ野球を経済でしか捉えられない理念なき企業は、速やかに退場してほしい。そして、野球文化を盛り上げていこうとする新しい勢力が参加するようになれば、多少はいい方向に動きだすかもしれない。

 そんな中、広島カープの松田元オーナーだけが、「地域の理解が得にくい」として合併の採決を棄権したのが唯一の救いだった。(2004.9.11)


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