陰湿な閉塞社会、日本

 イラクで武装勢力に拘束された5人、特にはじめに拘束された3人に対する非難や中傷が続いている。しかも、政府・与党からも人質になった人たちを非難する発言が相次ぎ、そういった世論を積極的にリードしている。戦乱の続くイラクに自らの危険もかえりみず、人道支援にあるいは報道のために行った人たちが何故ここまで非難されなくはならないのか、僕にはわからない。

 高遠さんなどは自衛隊が派遣されるずっと以前から、イラクでストリート・チルドレンのための支援を行なっていた。高遠さんに限らず、NGOの方たちは自衛隊の派遣されるかなり以前からイラクの人たちのことを真剣に考え献身的な支援をしていたし、現地で活動するジャーナリストの人たちによってイラクで何が起きているのかを僕たちは知ることができた。こういった人たちによって、イラクにおける日本の評判は支えられていたといってもいいと思う。 非難する人たちの論調は、「政府の退避勧告を無視して、危険なイラクに行って人質になり、国に迷惑をかけお金を無駄使いさせた」というものだ。しかし、この事件の本質をもっと考えてもらいたいと思う。

 アメリカ軍はイラクのファルージャで自国民の4人が殺されたうえ、死体を引きまわされ、その一部が橋や電柱に吊るされるという事件に衝撃をうけ、常軌を逸した掃討作戦を始めた。その歴史の残るであろうファルージャの虐殺に武装勢力は外国人を人質にとり、アメリカと有志連合の各国の間にくさびを入れようと考えたようだ。そのため、ファルージャ付近を通行する外国人が次々と拉致された。拉致された外国人は18カ国にのぼり、50人以上といわれる。その中にアンマンからバグダットに向かった日本人の3人も含まれてしまった。

 今回の事件の本質は3人の無謀な行動ではなく、アメリカ軍のファルージャでのあまりに行き過ぎた軍事行動にある。したがって日本政府としてまず非難しなくてはならないのは、アメリカ政府なのだ。そのアメリカには何もいわず、弱い立場にある人質だった3人に矛先を向けるとはあまりにも姑息であり、まともな国家とは言えない。さらに「退避勧告を無視して危ないところに行った責任」というがそういった場所でどういうことが行なわれているのかを報道するのがジャーナリストなのだし、苦しんでいる人を支援するのがボランティアなのだから、それを一方的に非難するのは間違いだ。パウエル長官の言うように、自らそういったところに飛び込み、苦しんでいる人たちを助けようとする人たちを誇りに思うべきだ。そういった彼らにねぎらいの言葉ひとつかけず、非難するとは言語道断の誤りだ。

 そして「自己責任」という言葉がさかんに聞かれるようになった。政府閣僚が言い出し、それが大衆までに広まったが、具体的にどういうことを言いたいのか僕にはさっぱりわからない。「自己責任」だから武装勢力に誘拐されても、政府は救出する必要はないという意味で使っているのなら、日本という国は最早まともな国家ではない。個人の思想・信条に関りなく、自国民が拉致・誘拐されたら救出するのは政府の責務だ。それを放棄するのなら、国などあってもなくても同じになってしまう。「自己責任」など今回の事件では全く的外れな言葉だ。

 救出にかかった金額のこともよく話題になる。20億円とも言われ、「税金の無駄使い」という政治家もいるが、自国民の生命を救うためにかかったお金が無駄なのだろうか?僕たちが何故、納税をしているのか理解していない政治家が多いようだ。国というのは突き詰めていけば、そこに暮している人の生命と財産を守るために存在し、そのため僕らは税金というヤツを払っている。したがって、その税金が今回のようなことに使われるのは当然のことであり、そのことをどうこういう政治家は頭がおかしい。高速道路をつくる方が人の命を救うことより重要なことなのだろうか?国民の税金は自分たちの利権のためにあると勘違いしているバカが多いようだ。たとえ20億円かかったとしても、それによって貴重な人命が救われたのなら安いものだ。

 また、今回の事件での日本の状況はまさに日本社会そのものを現しているように思う。学校でも、会社でもこれと似たようなことは日々起こっている。人とはちょっと違う行動をしたり、考えを持っている人はいろいろな迫害を受ける。日本の社会は異分子を排除しようとする強い傾向があるように思える。学校や会社などではそれぞれの個性を尊重するというより、同じ考えや行動を共有するような教育がされている。そのため、そのどうでもいいような規律を脅かす者は無視されたり、袋叩きにあってしまう。したがって同じ考えでひとつにまとまるのは得意だが、考えの違う人同士をコーディネートするのは不得手だ。

 イラクの人道支援にしても、軍服を着て銃を持った自衛隊にストリート・チルドレンの支援ができるはずはないし、アメリカの受け売りしかできない日本政府に劣化ウラン弾の危険性を啓蒙する絵本を作成することはできないだろう。しかし、自衛隊だからできるということもあるわけで、政府はNGOの人たちの意見をよく聞きながら、それぞれの得意分野で有効な活動ができるように調整するべきだ。それができないというのは日本という国が幼稚な国家だということを世界に宣伝しているようなものだ。

 今回の事件後の日本は戦前に戻ったかのような感じさえする。この国には自由と民主主義というものがよくわかっていない人が結構いるらしい。政治家、一部マスコミそして大衆のよる言論封殺、ますます息苦しい社会になってきている。被害者やその家族の方は言いたいことも言えない状況に追いこまれている。そして、ネットの掲示板に寄せられる陰湿な誹謗・中傷の嵐…。これが一皮剥けた日本の本性なのかと思うと哀しくなると同時に、恐ろしさを感じる。

 今は心身ともに疲れ切って体調を崩されている被害者ならびにその家族の方が、一刻もはやく回復され、心身の健康を取り戻されることをお祈り致します。(2004.4.24)


皆さんのご意見・ご感想をお待ちしています。joshua@xvb.biglobe.ne.jp

TOP INDEX BACK NEXT