イラク日本人人質事件

 必要のない戦争だった。米英はイラクと9.11の同時多発テロとの関連や大量破壊兵器の疑惑で事実を歪曲し、また捏造して、ことさら不安を煽り、国際社会の反対を押し切って必要の全くない戦争、殺戮を始めた。「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」との憲法を持つ我が国の首相もいち早く、この米英による犯罪ともいえるこの戦争を支持した。そして今日までに多くの女性や子供を含む大勢のイラクの人が殺され、傷ついた。

 戦争開始から1年を経過したが、ファルージャでの出来事をきっかけに、混乱はますます激しくなり、イラク全土に広がろうとしている。そんな中、ヨルダンのアンマンからイラクのバグダットに向かった日本人3人が問題のファルージャ附近でイラクの武装勢力に拘束されたとの衝撃的なニュースが流れた。

 サラヤ・アルムジャヒディンと名乗る犯人グループは当初、「3日以内に自衛隊を撤退させるとの表明しなければ、人質を焼殺す」との文章を、人質を映したビデオテープといっしょに中東の衛生テレビ局のアルジャジーラに届けた。その2日後、今度は一転して24時間以内に人質を解放するとのFAXがアルジャジーラに入り、一時は楽観ムードが流れたが、その後全く進展がなくなってしまった。しかも皮肉なことは拘束されている3人はそれぞれイラクの人々のために真剣に活動していた人たちだということだ。

 高遠菜穂子さんは路上で生活することを余儀なくされた子供たちを支援する活動を続けていたし、今井紀明さんは米軍が使用した劣化ウラン弾の危険性を誰でもわかる絵本にして啓蒙しようとしていた。またジャーナリストの郡山総一郎さんは自分の目で見たイラクを伝えようとしていた。

 犯人側の自衛隊撤退要求に対して、すぐに政府はそれを拒否することを表明した。テロには屈しないというわけだ。また一部の政治家からは「危険を覚悟して行ったのだから、自己責任だ」といった声もきかれた。僕はこのようなことをいう者は政治家失格だと思う。

 イラクには政府の退避勧告が出ている。それでもイラクに行き、それぞれの活動をしようと決意するということはそれなりの覚悟はしているはずだ。しかし、本人が覚悟しているからといって、国が同胞を見殺しにしていいということはない。国の存在意義は国民の生命と財産を守ることにあるのだから、どのような手段を使っても救出に全力を尽くさないといけない。一般の市民がいうのならともかく、政治家が見殺しもやむなしとするような発言はしないでもらいたい。

 また、「危険な地域に勝手に行って、こういうことになるなんて迷惑だ」という声もよくきかれる。これも全く筋違いな話しだ。確かに3人は危険な地域に自ら行き、そして人質になってしまった。しかし、3人はいい加減な遊び心ではなく、米英の犯罪によって傷ついたイラクの人たちを少しでも助けようとしてイラクに行ったのだ。こういった人たちがひとりもいないという国を想像してもらいたい。政府の管理統制に完全に抑えこまれた、そんな国にあなたは住みたいと思うだろうか?戦争によって傷ついた人たちを助けようと行動を起す人がひとりもいない、そんな国をあなたは誇りに思うだろうか?迷惑をかけているのは、彼らを拘束したイラクの武装勢力の方だ。

 犯人側からのイラクからの自衛隊撤退を即座に拒否した政府だが、未だに「自衛隊はイラクの人道復興支援のため」と言っている。「人道復興支援」なのだから、撤退する理由はないという論理だが、これもそのまま考えると「自国の市民の命より、イラクの人道復興支援のほうが大事」ということになってしまう。政府は自衛隊が何故、イラクに行かねばならなかったのか、国民に詳しく説明するべきだ。戦地に自衛隊を派遣するということは、こういうことなのだ。日本も戦争に徐々に巻き込まれて行くことは避けられないだろう。

 しかし、現実に自衛隊はイラクに駐留している。ここで犯人の要求を受け入れ、自衛隊を即時撤退させれば、日米の信頼関係は揺らぎ、国際社会からの信用も低下するかもしれない。しかし、イラク情勢は悪化している。政府が自衛隊派遣の下地にしている非戦闘地域という観念もさらに怪しい状態になっている。自衛隊派遣の前提が崩れかかっている今、自衛隊の一部でも撤収を検討することは当然のことのように思う。

 そして、アメリカをというよりはブッシュ政権を無条件に支持することを止め、この戦争は間違いだったと世界に向かっていうべきだ。必要のない戦争だったことは、ほとんどの人たちは感じているはずだ。いつまでもこの戦争を起した犯罪者に追従しているようでは、未来はないような気がする。

 1977年に起きたダッカ事件のとき、当時の福田首相は「人命は地球よりも重い」といい、日本赤軍の要求を受け入れた。僕は「人命は地球よりは重い」とは思わないが、30年近く経って人の命というものに対して、みんな鈍感になり過ぎている。

 また、人質になった3人の家族の方がここのところTVに連日映し出されている。家族の方の主張や言論に不快感を覚える人もいるらしく、いやがらせが相次いでいるようだ。全く、他人の気持ちというものを推し量ることのできない人間が多いと感じる。家族が異国の地で人質にとられているのだ。その心情を少しでも感じてほしい。家族の方が思っていることも言えないような風潮は恐ろしいことだと思う。大衆による言論封殺は絶対にあってはならない。

 安易に起してしまった戦争…。その結果、悲惨なことが毎日々起こっている。その戦争を起してしまった責任はあまりにも重い。そしてまた、日本人のジャーナリスト2人が拉致されたとのニュースが流れた。(2004.4.15)


皆さんのご意見・ご感想をお待ちしています。joshua@xvb.biglobe.ne.jp

TOP INDEX BACK NEXT