年齢制限について考える


 仕事を探すときに必ずといっていいほどついてまわるのが年齢制限だ。年齢が高くなればなるほど仕事を探すのは一般に難しくなる傾向にある。

 平成13年10月1日より改正雇用対策法が施行され、労働者の募集・採用について、労働者にその年齢にかかわりなく均等な機会を与えるように努めなければならないことになった。これを素直に解釈すれば募集・採用の条件から年齢は除外され、年齢制限などなくなり、職業安定所や求人誌から年齢の項目は消え、履歴書に年齢を書く必用もなくなる。実際に、このような法律が徹底していて履歴書に年齢を書く必用がない国もあるようだ。

 だが、このような法があるにもかかわらず、日本では何処でも年齢制限の項目があり、それを不問としている企業は少ない。それは年齢制限が認められる場合として例外を認めているからだ。年齢制限が認められる場合は全部で10項目あり、かなり退屈だけどそれを以下に書き出してみる。

  1. 長期勤続によりキャリア形成を図るため新規学卒者などを募集・採用する。
  2. 特定の年齢層の労働者が少ない場合に、従業員の年齢構成の維持・回復を図るために特定の年齢層の労働者を募集・採用する。
  3. 定年年齢や継続雇用の最高雇用年齢との関係で、採用しても、労働者に十分に能力を発揮してもらったり、必要な職業能力が形成される前に退職することとなるような場合に特定の年齢層以下の者を募集・採用する。
  4. 賃金が年齢により決定され、そのことが就業規則に明示されており、年齢にかかわりなく一定の賃金で募集すると採用して場合に就業規則違反となることから、特定の年齢以下の者を募集・採用する。
  5. 取り扱う商品などが特定の年齢層を対象にしていることから、顧客との関係で義務が円滑に遂行されるように特定の年齢層の者を募集・採用する。
  6. 芸術・芸能の分野の表現の真実性のために特定の年齢層の者を募集・採用する。
  7. 労働災害の発生状況等から、労働災害の防止や安全性の確保のために特に考慮が必要な業務について、特定の年齢層の者を募集・採用する。
  8. 体力・視力など加齢により一般的に低下する機能が、募集しようとする業務の遂行に不可欠であるため、特定の年齢以下の者を募集・採用する。
  9. 行政期間の施策を踏まえて中高年齢者に限定して募集・採用する。 
  10. 労働基準法等の法令により、特定の年齢層の就業などが禁止又は制限されてい業  務について、禁止または制限されている年齢層の労働者を除いて募集・採用する。

 ここまで例外を認めてしまえば、この法はほとんど骨抜き状態でまるでクラゲのようだ。中には社内の就業規則違反になる場合などとふざけた理由もある。年齢に関係なく有用な人材を採用しようとする意欲がある企業だったら、そのような時代に合わなくなった就業規則の改訂などさほど難しい作業でもないような気がするのだけど…。特に職安などでよく見かけるのは(8)の事例だ。記述もあいまいだし、一番お手軽に利用できるからだろう。これらひとつひとつについて意見を書こうと思ったが、虚しい気もするので止める。

 では、例外を一切認めず、年齢による差別を一切禁止したら中高年の募集・採用は改善されるだろうか?そうなれば、確かに表立っての年齢制限は消えるかもしれない。しかし、企業はそんなことにおかまいなしで裏で年齢による差別を続けるだろう。書類選考と称して履歴書や職務経歴書を応募者に送らせ、それによって採用したい年齢から外れる者は落とされる。履歴書などに年齢を記入する義務はなくなっても、それは不採用になるのがちょっと先に伸びるだけで返って始末が悪いことになるかもしれず、効果があるかどうかは疑わしい気がする。

 僕自身も何回かいやな目にあった。応募書類を送ってもなしのつぶてなんていうことは日常茶飯事だった。ある大手の出版会社でのアルバイトに応募したときなど、2週間経っても何の連絡もなかったので、担当者に電話をしたら「選考中です」の一言で、仕方なく待つことにした。しかし、それからさらに日々を重ねても何の連絡もなく1ヶ月が過ぎてしまった。さすがに結果は何となくわかったけど、やりたかった仕事なのでだめならだめではっきりと採否が知りたかった僕は電話で確認することにした。すると担当者から総務に回され「調べてきます」としばらく待たされた後、「残念ですが、Hさんは会議で不採用ということに決まりました」と言われた。後に担当者からのメールで知ったのだけど、かなりの応募者がいたらしくそれで連絡が遅れたということだった。しかし、アルバイトの選考で1ヶ月は長過ぎる。年齢が高いということだけで面接も受けられないケースは非常に多い。

 小さい会社だと直接的に言われることもある。自宅から自転車で通勤できる従業員15名ほどの印刷・製本を行なっている会社に応募したときのことだ。ここは正社員としての応募だった。職安で検索して年齢制限はあったが、自分はその範囲で特に経験者のみの募集でもなかったので応募することにした。職安で紹介してもらったのだけど、その時たまたま先方の社長が留守だったので、後で自分で面接の電話をいれることになり、紹介状だけもらい帰宅した。社長が帰社すると言われた3時過ぎに、自宅から電話をした。この時、年齢のことで散々と言われた。
「もうすぐ40になる初心者など指導したくない」
「自分が人を雇う立場になって考えたらわかるだろう」
「若い人と自分とどっちが覚えが早いと思う?」
「若い人と自分とどっちが機敏に動けると思う?」
「バイトだったら考えてもやるが、若い人が入ってきたら辞めてもらう」等々…。
結局、僕はこんな会社で働きたくもないので、丁寧に辞退し、自分で紹介状に記入して職安に提出した。だけど、これが会社側の本音で、もし自分が会社で人事を担当していたら同じように考えるかもしれない。

 仕事ができ、その会社に貢献できたら年齢など関係ないと思うのは僕達の勝手な思い込みなのかもしれない。会社側としては若くて有用な人材が一番ほしいのだろう。しかし、若いことが全てにおいて勝ることとは思えない。マクロな面で例えば20代の人と40代の人を比較検討してみればある傾向は出るかもしれないけど、ある特定の個人を比較した場合は全く逆になる場合もあるはずなのだ。

 僕には会社側が年齢という誰にでも簡単にわかる指標をもとに、ある幻想に基づいて人間を判断しているとしか思えない。例えるのなら「結婚するなら3高の男じゃなきゃ」なんて未だに言っているバカ女とそう変わらないような気がする。人間を見ることができず、付帯しているわかりやすい肩書きや数字で、その人を判断している。会社で一番大切なのは間違いなく人材であり、有用な人材をただ年齢だけで門戸を閉ざしてしまうような企業には明るい未来はないだろう。

 しかし、そういう会社に暗い未来がやってくるのも時間がかかる。それに僕達がいくら何を言っても企業の姿勢が変わらない限り、事態は変わらない。だから、前にあまり効果は期待できないかもしれないと書いたけど、労働者の募集・採用についての年齢制限を原則として禁止してもらいたい。そして、どうしても年齢制限をしないといけない場合はいくつかの項目の中から選ぶのではなく、その会社の言葉でその理由を明記するようにしてもらいたい。

 長い目でみれば少子高齢化社会が進む日本なのだから、そうそう「若い人、若い人」なんて言っていられなくもなるような気もするけど。(2003.10.25)


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