オンデマンド版
夜 I 庭 訓 抄
藤原伊行 原著 / 加藤達 解義 定価 (本体2,500円+税)
A 5判 80頁 ISBN 978-4-8195-0267-2
世尊寺流6世伊行が娘に宛てた家伝書。平安末の混迷する時代に
あって書の本流を説いた日本書論三部集の一つです。
序章
最近、書論の研究は深まり、学書の体系も表現領域、鑑賞領域、理論領域と確立
してきた。理論において中国のものとわが国のものと比較した場合、後者に見劣り
があるという事を痛感していたが、ふとした機会に、安藤隆弘、近藤康夫両先生の
日本書論研究メンバーに加えていただき、入木三部集の一つ「夜鶴庭訓抄」にア
タックすることになった。しかしながら最も若輩の身でその重責に耐えることが出来
るかどうか、内心の恐れは絶えず付きまとった。
まず、全文の通読から始める。一回、二回、三回・・・。何回目になったであろうか、
おぼろげながら全体の構成が見え始め、なお通読の回を重ねるごとに、それまで気
付かなかった言葉の端々に宿る、古人の書に対する思いを読み取ることが出来るよ
うになった。日本文化伝承に対する書人のなみなみならぬ意志を、肌に感じることが
出来た。
静かに目を閉じると王朝絵巻が繰り広げられる。
衣冠に身を正しているのは、世尊寺流第六世の当主、藤原伊行であり、その前に十
二単衣の装いを凝らしているのは、その娘右京大夫である。
しばらくの静けさの後、父親の口よりもれ出た言葉は
「入木とは手書くことを申す。この道こそは、何事よりも伝うべけれ。」であった。再び
静けさは戻る。春の夕べは暮れなずむ。
このような場面を頭に描きながら稿を続けた。しかし、どれだけ「夜鶴庭訓抄」に込めた
先人の心を解き明かすことが出来たか。甚だ忸怩たるものがある。
1981年12月 加 藤 達 識
※オンデマンド版
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