昼休みの時間に突入して数十分が経過しただけなのに、食堂は既に満員だった。
「混んでますね。売店で何か買って教室で食べますか?」
華音にそう提案されて、和明は売店の方に目を向けた。
しかし、売店の様子を一目見て、軽く首を横に振った。
「いや、売店も同じくらい混んでる。これだったらどっちで待っても一緒だよ。」
華音は昇降口の方を指差して、次の案を出した。
「じゃぁ外のコンビニ行きましょうよ。」
それを聞いて、和明は眉を顰めた。
登校してから学外に出るのは校則で禁止されている。
勿論多くの生徒がその校則を破ってコンビニにお昼を買いに行っているし、
それを一々注意する教師もいない。
しかし、校則を破るという行為自体に激しく嫌悪感を抱く和明は、
どんなに必要を感じても校則を破ろうとは思わなかった。
「いや…。そんなに時間掛からないよ。待とう。」
そう言うと、華音は和明を安心させようと思ったのか、軽く笑んでみせた。
「警備員居ない事の方が多いし、大丈夫ですよ。」
華音のその台詞に、和明は何だか少しがっかりした。
「そういう問題じゃないだろ。校則は守らないと。」
いつもなら校則違反をする相手に抗議なんてしない。
するのは他人の勝手だと思っているし、それを咎める気も無かったから。
しかし、華音は別だった。華音には、どうしてかそんなやたらに校則を破って欲しくなかった。
でも、真面目な所を見せすぎて離れていった友人を思い出して、
強い調子で前半の台詞を言った後、小さく付け足しをした。
「あ…俺は守りたいんだ。」
何も言って来ないのが不安で自分より長身の華音を恐る恐る見上げると、華音は無表情だった。
やってしまったか、そう思った瞬間、華音はニッコリ笑った。
「そうですよね。変な事言ってすみません。待ちましょう。」
和明はその華音の回答にホッとして、頷いた。
「そう言えば春の学祭の話、聞きました?」
やっと席が空いて昼食を取り終わった頃、思い出した様に華音がそう言った。
この学校では大規模な秋の文化祭に加えて、新入生との交流も目的として春にも小さな学祭をしている。
「うん。秋月くんは何かやるの?」
「いや、僕は部活動には何も参加していないので。有志でも参加しません。
あまり…好きでは無いんですよ、馬鹿騒ぎは。
もっと何て言うか…生演奏のピアノやバイオリンの中でお茶出来る喫茶店とか、
そういう企画があれば参加してもいいですけどね。
そんな事を考える人達はあまり居そうにありませんので。」
華音が言ってる事は何となく分かる気がした。
和明も馬鹿騒ぎはあまり好きでは無い。
「そうだね。ワイワイやってそれで盛り上がっても、それだけ、だもんね。」
「そうなんですよ。その場で楽しいだけじゃなくて、その後、良かったなぁって思える催しがしたいです。」
「うんうん。盛り上げるだけなら誰でも出来るけど、そうじゃなくて、ちゃんと特技とか生かす発表がいいしね。」
「そうですよ。お化け屋敷は幽霊そっくりの人だけがやればいいし、
女装喫茶は女顔負けの綺麗な男しかやっちゃいけないですよ。
特技発表、なんですから。」
和明は、ムキになって華音がそう言うのがおかしくて、思わずクスクス笑った。
「でも秋月くんは女装喫茶出来るね。」
そう言うと、華音はハタとお茶を飲む手を止めた。
「…え…?」
「あ…ごめん、気を悪くしないで。秋月くんは整った顔つきだから。別に女っぽいとかじゃないよ。」
華音は口元で小さく笑ってお茶を一口飲んだ。
「いえ、光栄です。」
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続きは考えてあるとかいいつつ、
長らくお待たせしてしまいました。
今回は展開を考えつつ、少しだけ二人を仲良しにさせてみました。
春の学祭。
こんなのどーでしょう??
ではひなちんにバトンターッチ!!
(2006/05/23 Lu.umi)