信じられなかった
信じたくなかった
あいつは俺の全てで
俺はあいつなしでは生きられない
そのことを心から実感させられた
あいつをただ失いたくなかった





9.


夕飯を食べ終えるとすぐにキビキビと木村が後片付けを始める。

その間に俺は、木村に勧められるままにお風呂に入ることにした。

シャワーの心地よい刺激に身を任せたまま、懸命に自分の中から悪い予感を追い払う。

それでもやっぱり不安は収まるどころか、一層強くなっていき、結局シャワーもそこそこに風呂場を後にした。

しかし、リビングに戻ってみると、居るはずの木村の姿が見当たらない。

「木村?!」

慌てて寝室に駆け込むがそこにも姿はなかった。

念の為に玄関を確認すると、木村の靴は確かにそこにあった。

何かがおかしい。

トイレもベランダも覗くがいない。

最後にキッチンに足を踏み入れる。

本当はキッチンに居ればリビングから見えるのでその必要はないのだが、嫌な予感がした。

「…っ!」

そこで俺は最も考えたくなかった事態を目の当たりした。

「おい!木村!!」

そこには流し台の前に横たわる木村がいた。

驚いて駆け寄るが、どうすればいいのか分からず、怖くて揺り動かすことも出来ない。

目の前に跪いて手を握り、必死に声をかける。

しかし木村はピクリとも動かない。

慌てて電話をかけて救急車を呼び、俺は目の前が真っ白になっていくのを感じながら必死に木村の手を握り締めていた。

頼む、木村。

お願いだから気付いてくれ。

この手を握り返してくれ。

頼むから――

遠くから救急車のサイレンの音が近づいてくるのを感じながら俺はひたすらに祈った。

 

2004/3/30(HINATA)