それはあまりに突然で
あまりに衝撃的で
そしてあまりに残酷だった
俺は自分の無力さを思い知らされ
と同時にあいつの強さを知った






5.


それから、何事もなく数日が過ぎた。

俺と木村の関係も元通りになり、何もかも以前と変わらない状態になったはずだった。

木村が時たま見せる、悲しそうな、切なそうな、それでいて物憂げな表情を除けば。

その顔を木村が見せた時、決まって俺は心配になった。

木村がとても儚く見えて、今にも俺の前から姿を消してしまうんじゃないかと思った―



それからまた数日が過ぎたある日、

予定より大分早く収録を終えた俺は、木村の待っているであろう楽屋へと足を速めていた。

しかし、不意に聞こえてきた木村の声に足を止める。

声が聞こえてきているであろうその楽屋は、その日は誰も使っていないはずだった。

しかし、確かにそこから漏れ聞こえてくるのは木村の声…そしてマネージャーの声。

俺は吸い寄せられるようにそのドアに近づき、そっと耳を近づけた。



「本気なの?」

「あぁ…これ以上みんなに隠しとおせる自信がなくなったんだ」

「でも…」

「ごめん。でも、このままだと俺だけの問題じゃなくなるから」

「それは、あなたがSMAPを辞めても変わらないと思うけど」

「それでも、出来るだけ傷は浅い方がいい。今からならみんな立ち直れるだろうから」

「本当にそれでいいの?拓哉は」

「俺はSMAPが好きだから。だから、これは俺の驕りかもしれないけど、

俺の所為でSMAPがダメになるなんてことになったら、死んでも死にきれない」

「拓哉…」

「本当にごめん。メンバーには近いうちに俺から話すから」

「でも、なんて説明するつもり?…中居にはもう言ってあるの?」

「いや…出来れば中居には知らせたくない」

「そんなこと…他にどう説明するっていうのよ」

「無理を言ってるのは分かってる。でも、あいつにこの苦しみを背負わせたくないんだ」

「でも、中居が後から真実を知ったら、もっと苦しむわよ、きっと」

「そうかもしれない。これは俺の我侭なんだとも思う。でも、俺はあいつの笑顔を見続けたいから」

「その最善の方法をあなたは知ってるはずよ、拓哉」

「…」

「我侭を言うならとことん言いなさい。

中居の笑顔を見続けたいなら、真実を告げないつもりなら、最期までSMAPとしての責任を果たしなさい。

出来ないのなら中居に真実を告げるしかないわね。どうするの?拓哉」

「それは…」



ガタッ



「誰っ?!」

動揺のあまりにたててしまった音を聞いて、マネージャーが近づいてくる気配がする。

しかし、俺はその場から動けなかった。

混乱していた。

意味が分からなかった。

どうなってるんだ、一体。

―SMAPヲヤメテモ―

―シンデモシニキレナイ―

そんな言葉が頭をかけめぐる。

でも、ちっとも理解はできなかった。



ガチャッ



目の前のドアが開き、驚いた顔をしたマネージャーの顔が現れる。



「中居?!……聞いてたの?」



それでもなお、俺の頭は混乱したままで…



どういうことだよ、木村。

説明してくれよ。

一体、何があったって言うんだ。



「中居…」



ドア越しに木村が驚愕の表情を浮かべた後、顔を歪めるのが見えた。

あぁ、「あの表情」だ。

冷静にそんなことを思う一方、相変わらず俺の身体は固まったままで、

その場から逃げ出すことも、木村に歩み寄って問い詰めることも出来ずにいた。



木村、助けてくれよ。

頼むから俺のこの最悪な推測が間違いだと言ってくれ。

お願いだから…

 

2003/5/31(HINATA)