何かに突き動かされるようにして
俺は「儀式」を続けた
どうしてもやらなければいけないと思った
現実を受け入れるにつれて
俺の中で成長を続けていた穴が
少しずつ小さくなっていくような気がした
22.
闇が濃くなってきているのを感じながら、俺は車を走らせた。
向かう先は決まっている。
海だ。
2人でよく行った、海。
すこし都心から外れたところにあるその海は、いわゆる「穴場」ってやつで。
俺達にとっては、人目を気にすることなくゆっくりできる貴重な場所だった。
しかし―
「久々だな…」
思わず声に出して呟く。
ここ2,3年は2人でドライブに行くのもままならないほど忙しくしていたし、
木村の病気が分かってからは、極力遠出はしないようにしていたこともあった。
車で3時間。
敢えて国道を使わず、一般道を使う。
これも木村と行っていた頃の習慣だった。
出来るだけゆっくり、ドライブを楽しめるように。
木村はそういうヤツだった。
目的地に如何に早く着けるか、ではなく、
目的地までの道程を如何に楽しめるか、を考えるヤツだった。
信号待ちで不意にキスをしてきて、いたずらっぽく笑っていたことを思い出す。
そういえば、この道を運転するのは初めてだ、ということに気付く。
海に行く時は、というより、2人で車に乗る時は木村が運転するのが常だった。
道理で違和感があるわけだ。
思わず苦笑する。
やがて、海が見えてきた。
いつも停めていた場所に車を置き、いつものようにゆっくりと砂浜へ降りる。
いつもと違うのは、隣に木村がいないということ。
陽が昇るまではまだ数時間あった。
存分に潮の香りを吸い込むと、寒さに肩をすくめ、ひとまず車に戻る。
後部座席に横になり、目を閉じる。
身体から余計な力が抜けた気がした。
しばらくすると、何か不思議な感触があった気がした。
―あぁ、夢だな…
そう思いながらも、俺はその感触に集中する。
夜明けが待てなくて寝てしまった俺に、木村がいつも毛布を掛けてくれた。
その感触だった。
暖かくてふわっとした感触。
その心地よさに、思わず泣きそうになる。
そして頬を伝う涙をぬぐうのと同時に、その感触は消えた。
俺は―覚醒してしまったのだ。
気付いてみれば、空がすこしずつ明るみを帯びている。
俺は再び車を出ると、砂浜に腰を下ろして水平線を見つめた。
日の出を見るのも久しぶりだ、と思いながらじっと見守る。
やがて太陽が顔を出し、少しずつ少しずつ昇ってきた。
その光の眩しさに、俺は目を細める。
太陽が昇りきったのを見届けると、俺は4本目のタバコを取り出す。
火をつけて煙を吸い込む。
胸の中いっぱいに。
心の中に空いている穴を埋めるように。
そして大きく息をつく。
吐き出した煙が空へ昇っていくのを眺めながら、俺はタバコを消した。
そろそろ次の場所へ向かおう。
「儀式」ももう、終わりに近づいている。
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2005/9/22(HINATA)