俺が今しなくてはならないこと
現実を受け入れること
自分を取り戻すこと
そしてアイツとの約束を果たすこと
そう―SMAPを守ること
だから俺は「儀式」を始めた





21.


DVDを取り出してケースに戻すと、俺は携帯を取り出した。

電話の相手はマネージャー。

2日ほど休みが欲しい。

いや、必要だった。

怒られるのを覚悟していたが、マネージャーはあっさりと了承した。

最近の俺の状態を知っていたからなのか。

それとも慎吾あたりが何か言ったのかもしれない。

なにはともあれ、要求は通った。

携帯と財布とそれと鍵を手に、俺は家を出た。

車に乗り込み、近くの自販機の前で一度車を停める。

そこで、タバコを一箱買った。

いつも吸ってるものではなくて、木村の吸っていた銘柄のものを。

1本取り出して吸う。

深く深く。

懐かしい香りがした。

1本吸い終えると、俺は改めて車を出した。

木村との思い出の場所を巡るために。

木村がもう居ないということを、きちんと認識して受け入れるために。

そして自分を取り戻すために。



まず向かったのは、木村の部屋。

いや、木村の部屋「だった」ところ。

一緒に住むようになるまで、木村が生活していた場所。

マンションの前に車を停め、エレベーターで上がる。

そして見慣れた部屋の前へ。

しかし、案の定、そこの表札はなくなっていた。

大方、マネージャーが解約手続きをしたのだろう。

念のために持ってきていた合鍵を差し入れると、あっさりと開いた。

次の契約者が決まってないから、まだ鍵も変えていなかったのか。

少々の驚きと共に、俺は中へ入った。

カラッポの部屋。

リビングルームの窓際まで行き、開け放つ。

外から見えないように、ベランダの柵に寄りかかって座りこむ。

そこで2本目のタバコを取り出して吸った。

煙を吸い込みながら、目を閉じる。

木村が居た頃のことを思い出しながら、ゆっくりと息を吐き出した。

そのタバコも短くなってきて、携帯灰皿で揉み消すと、俺は部屋を後にした。

次の場所へ向かうために。



次に向かったのは病院。

木村の入院していた場所。

通いなれた場所…自然と足が動く。

大きな病院で、比較的面会時間が終わるのも遅い。

といっても人はまばらだった。

俺は気付けば、毎日のように通った病室の前まで来ていた。

もちろん、そこに木村の名前はもうない。

いつかしたように、名前があったはずの場所をゆっくりと撫でる。

この病室に木村が入った時のことを思い出す。

俺よりよっぽど落ち着いていた木村の顔を。

木村が入っていたのは特別室だったために、部外者は入れないようになっている。

俺はもう一度病室のドアを見上げると、ゆっくりと背を向けた。

そして振り返ることもなく、そのまま歩を進めた。

病院を出た俺は、近くの公園のベンチに座った。

木村がまだ入院する前、通院で済ませていた頃、よく2人で来た。

肩を並べて座って、公園で遊ぶ子供を眺めていた。

今は大分夜も更けているためか、公園には誰もいなかった。

1人で静かな公園を見渡し、俺はポケットから出した箱から3本目のタバコを取り出した。

火をつけると立ち上がって、公園を1周する。

ふざけて、木村と並んで漕いだブランコ。

2人で見上げた、大きな木。

並んだ鉄棒。

坂上がりの練習をしているコがいて、木村とこっそり応援したものだ。

そして、砂場。

そこまで来る頃にはタバコも短くなっていた。

灰皿を取り出してタバコを揉み消す。

もう一度公園をゆっくり見渡してから、俺は車に戻った。

時計を見ると、夜の9時を回ったところだった。

少し考えて、俺は車を出す。

朝から何も食べていないにも拘わらず、不思議とお腹は空かなかった。

ここのところ、ろくに睡眠も取っていなかったが、眠くもならない。

それより俺には、この「儀式」を続けることの方が大事に思えた。

 

2005/9/20(HINATA)